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もふりと彼の胸元にうずまるようにして抱きつく、大きくガタイのいい体躯をビクつかせ「お、おい!」彼は咎めるように声を上げた。聞いていないふりを決め込んで、より一層力の限り抱きつくと、彼も諦めたようで大きなため息の後、恐る恐る大きな手を背中に回してくれた。


「なまえ」
「なあに、ヴァイリー」
「俺がお前を傷付けない確証はどこにもねえぞ」
「それで?その確証の確証はどこからくるの?ヴァイリーは私を傷付けたいの?」
「ち、違ェよ!ほら、その万が一ってこともあり得るかも、だろ……」


獣人の国の王子……だったヴァイリー、彼を蝕む呪いのせいで完全な獣の姿へと変わってしまい、国を出ざるを得なくなってしまった。本来ならば殺されていたはずのヴァイリーは、執事さんの機転により私と遠くへ姿をくらますことになったのである。
いくつもの地を転々として、とある森の中に小さな小屋を見つけ、しばらくそこに留まることになった。雨風さえしのげればどこだって都である、森の中ということもあって人目につく確率はほぼゼロに近い上、木の実を始めとする自然の恵みで食料に困ることはない。

そこに住み始めてからしばらくして、相変わらず私が傷付くのを極端に恐れるヴァイリーは、最近特に様子がおかしかった。触れようとすると、決まって言うのが「傷付けたくない」である。
大丈夫だと何度言っても効果は薄い。


「ねえヴァイリー」
「なんだよ」
「外傷は時間が経てば自然と治るしいつかは消える、でも内側……精神的な、心に付いた傷は消えないことの方が多いの」
「……」
「私の言いたいこと、わかる?」


毛むくじゃらの顔に困惑の色がうかがえる、一瞬泳いだ視線に畳み掛けるようにして続けて口を開く。


「ヴァイリーに噛みつかれようと引っ掻かれようと一向に構わない、だってすぐ治るもの、でもね、俺に近寄らない方がいいってニュアンスのことを言われる方が、私にはよっぽど痛いし、つらい」
「なまえ……」
「ヴァイリーのことが怖かったらこんなに長い時間一緒にいないし、ぎゅってしたりしない」
「……」
「だからもっとヴァイリーにぎゅってしてもらいたいし、キスだってしてほしいよ」


まっすぐヴァイリーの目を見据えてはっきりと伝えれば、彼は困ったように視線を泳がせて照れたように頬を掻いた。ヴァイリー自身が私のことを嫌になちゃったっていうのなら仕方がないけれど。


「き!嫌いになんかなるわけねえよ!ありえねえよ、こんな俺を何度も救ってくれたお前をさ……むしろ好きすぎてどうにかしちまいそうなんだよ!」
「どうにかって?」
「だ、だから、ほら、その……」
「言ってヴァイリー、言わなきゃわかんないよ」
「抱きしめるとかキスとかそれより、その、なんつーか」


しどろもどろになりながら必死に説明するヴァイリーが可愛くて、堪えきれずに吹き出すとうなだれてしまった。


「なんだよ、わかってんだろ、なあ」
「私、ヴァイリーにならどんな抱かれ方をされてもいいよ」
「……そうやって期待させるようなこと言ってっと後で痛い目見んぞ」
「平気だもん」
「言ったな?」


にやり、不敵に笑って鼻の頭にキスをすればヴァイリーはきょとんとしてすぐに獣の目をギラつかせて低く唸った。


「やめろっつっても止めねえから」
「お好きにどうぞ」


軽々抱き上げられ、ふさふさの胸元に頬を預けると少しだけ早くなったヴァイリーの心臓の音が聞こえてきた。

20160122
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