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タブレットにスマフォに、それと連動して使える腕時計型の携帯端末、このレコルドには私が元居た世界を思い起こさせるものがたくさんあった。ただ、機能は格段にこちらの方が上である。

レコルドの王子であるテオドールさんは、今でこそ普通にしゃべってくれるのだが会ったばかりの頃は、まともにこちらを見てくれないし、見たと思ってもすぐにあさっての方向に視線を逸らすし、非常に扱い辛いというか人見知りを拗らせ過ぎて、会話をするのに大変苦労した。

と、言うのも私がこの世界に来てから全くと言っていいほどに他の国の情勢に疎く、ユメクイ撃退のためにも、とまずはいろんな国について調べるため記録の国へとやってきたのである。そこでたまたまテオドールさんを復活させることに成功して、大衆文化の記録をしていると聞き話を聞かせて欲しいと申し出たのだ。

人見知りで口下手、おずおずと様子を窺いながらしゃべる彼は自分でも自覚があるようで、女性を前にすると上手く話せないのだと言っていたっけ。今では懐かしい記憶のひとつだ。


「なまえ!これ、アップデートで新しい機能がすごいんだ!見て、ほら」
「ああ、はいはい」
「ほらこのカメ、ロボットのカメなんだけど足にブースターが付いていてメールの送受信の時に……信じられないスピードで飛んでいくんだ!」
「うさぎは涙目ですね」
「え?うさぎ?うん、それも可愛いね」


うん、アバターの話じゃなくて「うさぎとカメ」っていうお話のことだけど、ありえないカメのチート加減にうさぎも真っ青ですねってことだ。まあそれはどうでもいいとして。
私も最初に比べてテオドールさんの話を上手く流せるようになったと思う、得意分野以外は話題作りが全くできないので、ああ不器用なんだなあと何度も自分に言い聞かせ、面倒くさい人だと思わないように努めたのも懐かしい記憶。
別に話を聞いてないわけではないし、当たり障りなく返事をしていればテオドールさんもそれで満足しているみたいだから。私だって興味がわけば食いつくし、意見もする。いつもいつも流すわけではないから……って私は一体誰に言い訳をしているんだろう。


「あの、なまえ……」
「はい?」


懐かしい思い出を振り返りながらテオドールさんの話もそれなりに聞いていると、テオドールさんが私の顔をじっと見つめて眉尻を下げた。あれ、聞き流してるのばれちゃった?


「今夜は、その、暇……かな?」
「え?ええ、まあ特に何もありませんが」


一瞬ひやりとしたけれど、大丈夫そうだ。

そうそう、それから仲良く、というか次第に私に慣れてくれたらしいテオドールさんはいつの間にか私に好意を抱いてくれるようになっていて、気が付けばずっと一緒にいたいと言われていた。つまるところ、顔見知りから知人、友人そして恋人、と絵に描いたような行程で距離を縮めている。

こううなふうに紆余曲折あって、他の国の情勢について聞きにきていたはずなのに、今ではいつの間にかだいぶズレていて……。


「ええと、その、た、たまには……こう、話すとかではなくて、もっと触れ合うようなコミニュケーションを、と思って、みたりしたんだが……」


テオドールさんは真っ赤になりながらしどろもどろに言葉を繋いでいく、それはつまり要するに……誘ってらっしゃる?


「君に、触れていたんだ……」


困ったな、眉尻を下げて長い睫毛を震わせながら反応を窺うテオドールさんは無意識なんだろうけどすごく艶っぽくて、グッとくるものがあった。


「だめ、か……?」
「……ワイン」
「え?」
「年代もののワインがあるんですけど、用意しておきましょうか?」
「っ!ぜひ頼むよ!」


途端に広がる嬉しそうな表情に絆される、なんだかんだ言って私もテオドールさんが好きだし触れたいと思うから、最初の目的とは全然違うけれどこれはこれで、いいんじゃない?

20160107
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