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「だめだめだめーっ、この子ぼくとダブル!」
「何を言いますか、わたくしとシングルでございます」
「ノボリあっち行って」
「クダリがお行きなさいまし」
「ちょっと、あの、腕掴んで左右逆方向に進もうとしないで下さ」
「ねえ!きみはダブルバトル大好きだもんね?あとぼくも!」
「シングルバトルこそがあなた様の求めているものでしょう?あとわたくしも」

掴まれている腕がぎりぎりと悲鳴を上げる、話し掛けても聞く耳持たない白と黒のこの二人、今巷ではやりのバトルサブウェイというライモンシティにある地下鉄でもある一風変わったバトル施設のボス、サブウェイマスターだ。

話し掛けても聞いてくれないくせにこいつら、いけしゃあしゃあとダブルだのシングルだの、私がどっちとバトルするかで揉めやがる。

いやいやどっちともバトルしないし、私が何故バトルもせずギアステーションにいるのかといえば、個体値や能力診断をしてくれるジャッジ君(本名は知らない)に用があったからだ。

ポケモンセンターの隣にあるバトル診断へ行くため相棒達の能力を確認しておきたくてジャッジ君と話をしていたらこれだ。

今日はどうやらバトルにくる人が少ないようで両人共暇を持て余していたらしい、だからといって初対面でいきなり問答無用で電車に乗せようとしたあげくの果てに私の腕を引きちぎるつもりか。

勘弁して。

「ねえどっち!ダブルでしょ?」
「シングルとお答え下さいまし!」
「あああもう!しない!私はバトルを し ま せ ん!」

あらん限りの力を振り絞り、掴まれていた腕を振り払う、私の言った一言が余程効いたのか二人はぴしりと固まった。

全くひどい目に遭った、ぷりぷりしながら二人に背を向けギアステーションの出口に足を運ぼうとした時。

とす、とす、と両肩に重み。

「……まだ、何か?」

言わずもがな例の二人だ。ええと確かこの白くてにやにやしてるのがクダリさんで、黒くてむすっとしてるのがノボリさんだっけ?

「わたくし達としたことが、とんだはやとちりをしていたようです」
「うんうん、ぼくら勘違い!」
「まさかあなた様がマルチトレインをご希望だったとは露知らず」
「マルチならぼくとノボリ、両方戦える!きみ意外と欲張り!」

なんなのこいつらばかなのしぬの?

シングル、ダブルどっちもしないって言ってんのになんでそこにマルチとかいう発想が出てくるのか私には理解不能。

「だからバトル自体しないって言ってるじゃないですか」
「あれあれ?そうなの?うーん、じゃあ名前教えて!」
「……なまえですけど」
「なまえとおっしゃるのですね、いい名前です」
「いい名前!可愛い!」
「仕方がありませんので強行手段と参ります、クダリ」
「了ー解、ノボリ!」

理解なんか端っからしたくないけど肩に乗せられていた白黒両人の腕がまた私の腕を素早く絡めとったかと思えば、ずるずると引きずられていく。

あれ、出口が遠ざかる。

「さ、参りましょう」
「出発進行ーっ!」
「は、離っ……ちょっとおおお!」

これから参りますは超暴走特急につき終着駅まで止まりませんのでご注意下さい
(あれ、こっちスーパーマルチ……!)

20101229
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