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迂闊だった。

天候は雨、ここはセッカの湿原でもちろん湿原というからには水溜まりも多く、雨も降っているから足場は最悪でぬかるみが大量発生なわけで。

「ジム行く前に湿原の探索なんかするんじゃなかった……数分前の自分を殴りたい」

ぬかるみに足を取られてそりゃあもう盛大にど派手に転びました、ええ顔面着地でしたけど何か?鞄とモンスターボールだけは死守。そのふたつを上に掲げながら全身泥まみれの上体をゆっくり起こす、ぬかるみに座り込んだままさりげなく辺りを見渡して誰にも見られていなかったことに安堵のため息。

人には見られていなかったけれど、野生のガマガルとマッギョが嘲笑うかのようにその小憎らしい表情をこちらに向けて歪めていたから自慢の相棒でけちょんけちょんにしてやろうか。

そう思い、ボールに手を掛けたところでふと頭上に降り注いでいた雨が急に止んだ。転んだ拍子に私の傘はどっかに飛んでいってしまったはずなんだけど。

「大丈夫か」
「え」
「立てるか」

雨の代わりに降り注ぐ声を辿り顔を上げるとそこには番傘を差したセッカのジムリーダー。呆然としたままの私の腕を、自らが泥に汚れてしまうことをも厭わず掴んで引き上げてくれる。我にかえり着物が汚れちゃいますから!と慌てて自力で立つ。

「気にするな」
「す、すみません、ありがとうございます」
「顔面からいっていたようだが大丈夫か」
「……見てました?」
「たまたま近くを通り掛かった」

あんな無様な姿を見られていたなんて恥ずかし過ぎる、どんな顔してジム戦行けっていうんだオタマロか?オタマロみたいな顔して行けってか?

いや、それはそれで嫌だけど。今は恥を忍んでなんとやら。

「私はハチク、ここのジムリーダーだ」
「はじめましてなまえです、あ、後ほどジム戦をお願いしてもいいですか?」
「挑戦者だったか、受けて立とう」
「よろしくお願いします、では」
「待て」

いい加減この泥まみれの恥さらし的な姿をいつまでもしているわけにはいかない、お風呂借りて着替えるためにと急いでポケモンセンターへ向かおうとすればハチクさんが再び腕を掴む。

「なんでしょう」
「雨に濡れる、送ろう」
「え、あ……いやでもすでにびっちゃびちゃなんで走って行」
「鞄とボール、死守しただろう?」
「あ」

そうだった、せっかく自らを犠牲にして守り抜いたんだ、今更大した断る理由もないのでハチクさんのご厚意に甘えて相合い傘でポケモンセンターまで送ってもらうことに。

……ということは死守したあの顔面着地の瞬間も見られていたのか!とハチクさんの方を向けば何を思って下さったのか、見事な着地と死守だったと真顔で褒めてくれた。

「ではなまえ、ジムで待つ」
「……はい、ありがとうございました」

ポケモンセンターに到着し入口でハチクさんと別れた、お礼を言えば気にするなと言われたけれど気にせずにいることなんて到底無理。

あんな恥ずかしい場面を目の当たりにされて平然としていられるわけがない、今の私は一見平然としているように見えるだろうが内心羞恥で宇宙規模の大爆発ができそうな気がしている、追加効果で特性の誘爆付きだ。

災難に見舞われた私の元に、番傘を持って現れた和風王子様的なポジションのハチクさんに惚れてしまうというありがちな胸きゅんラブストーリーが展開されるかと思いきや、如何せん羞恥心の方が勝ってしまったからにはどうしようもない。

この羞恥を技に乗せ、ジム戦で発散させようと思った。


(ハチク様、挑戦者です)
(む、早いな)
(怒涛の……破竹の勢いで全てのジムトレーナーを瞬殺ストレート勝利ときてます)
(!?)

20101106
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