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「今度は薄すぎます、煎れ直してきなさい」
「……すみません」
「不服そうですが何か?」
「いえいえいえ滅相もございません!」

心の中で盛大に舌打ちをしたあと、心中お察しされる前に慌ててアポロさまの部屋を飛び出した。

手にはアポロさま愛用の黒地に、赤いロケット団ロゴ入りのマグカップ、幹部様方へ色んな人からの取り次ぎや身の回りの世話役のわたしは、またかよ!と叫びたいのを何とか堪えながら幹部専用給湯室へ向かう。

今日これで何度目だよコーヒーの煎れ直し!自分の好んだ味のものしか口にしようとしないアポロさまに、最近殺意が沸いて来るようになった。

食事には余程のことがない限り何も言わないくせに、わたしが煎れるコーヒーには毎度毎度、いちゃもんを付けまくる。

一日最低3回は必ず煎れ直しをさせやがりまして、今日はなんとこれで10回目だ。

「ちくしょうこうなったら憂さ晴らしにチープなインスタントでも煎れたろか」

アポロさまのあまりのわがままに、腹立たしさで今ならこのマグカップを握り潰せる気がする。今だけきっと握力100超えしてる気がする。

がん、と乱暴にマグカップを置き、お湯を沸かす。あの野郎、サイフォンはコクが少なく水っぽくなりがちで好まないからドリップにしろとか言ってさ!

お湯の注ぎ方ひとつでとんでもないことになるっていうのに、わたしプロじゃないから注文通りに出来るわけないっつの。

挽いたコーヒー豆を取り出し、フィルターに適量零す。むしろ塩でも……劇薬でも混入させてやろうか。ぎりぎりと歯ぎしりしながら、良からぬ企てを必死で脳内だけに押し止める。

「よ、なまえ」
「どーもラムダさん」
「まーた煎れ直しか」
「ええ、そうですともまたですよ」

へらへらした笑みを浮かべながらラムダさんは慣れた手つきで、インスタントのコーヒーを作り出す。もちろん適当だ。ああ、なんて羨ましい。

唯一事情を知る彼に思いの丈をぶつけ、荒んだ気持ちを押さえ込む、いらいらしたままアポロさまの元へ戻ればまた、いちゃもん付けられる。それは御免だ。

「少しくらい妥協すりゃいいのにな、コーヒーくらい」
「ですよね!全く殺意沸きますよほんと」
「はは、辛辣だな」

でもな、とラムダさんは顎髭をいじりながら極めて小さな声で耳打ち。

「あの人、なまえ以外のコーヒーは絶対飲まないんだぜ?」
「え……はい?」

軽くウィンクしながらそれ以上は言わず、ラムダさんはインスタントのコーヒーを持って去っていく。

全くもって意味がわからない、妙な期待を持ってるわたしも超意味わかんない。

「……どんな顔して、戻れってのよ」

あーあ、蒸らしすぎちゃった。また言われるかもしれないな、煎れ直してきなさいって。


お味はいかが
(でもなんだか悪い気はしなくなった)


用もないのに呼びつけるのには、コーヒーの煎れ直しが一番いいと思ったアポロさん。ラムダが介入しなければ多分一生報われなかった
20100228
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