pkmn | ナノ

なにもかもが終わりを告げた。

なにも残りはしない。

破れた世界、捻れた空間、進むことも戻ることさえもしない時間の流れ。

どれだけそこにいたのかは、わからない。
しかし己の命がもうそれほど永くはないということだけは、はっきりしている。

何もない世界

(これが私の最期か……)

もしかしたら、この破れた世界こそが私の望む、心も感情も全てを虚無に包まれた世界。

(見果てぬ夢、か)

大岩にもたれ掛かり、空なのか地の果てなのかわからない上を仰ぐ。静かに目を閉じれば耳が痛くなるほどの静寂だけが辺りを包んでいる。

心とは一体、何なのだ。

誰に問い掛けるでもなくため息と共に疑問を吐いた。

「終わった」

最後に一言だけ呟き、再びしっかりと目を閉じる。

本当に痛いほど静かだった。

「まだ終わってない、っていうか終わらせない」

ズズン、と地響きがして目を開けばそこにはあのギラティナと私の計画を何度もぶち壊していたなまえが立っていた。

「バカみたい」
「!?」
「一人で感傷に浸って、かっこつけちゃってさあ」
「何をしにきた」
「助けに来た」
「……余計な」

あいつの瞳は苦手だ。私は顔を逸らし、なるべく視界に入れぬようつとめたその瞬間、頬に鈍い衝撃に続いて痛みが走った。

突然の衝撃を受け切れず片手を付きなまえを見遣った。握りこぶしを作っているのを見れば殴られたのだとすぐにわかる。

「っつ……何を!」
「別にあんたを助けに来たわけじゃない、あんたの手持ちの子達が道連れだなんて納得いかないし」
「なんだと?」
「ポケモンに罪はない、でも目の前で人の命がなくなるってのも嫌だ、ポケモンだけ連れて来ても主人に困るから、ついで。ついでに助ける」

自分も痛かったのか、拳を開きひらひらとさせ私の視線に合わせてしゃがみ込んだ。

なまえの背後ではギラティナが少し不服そうな顔をしているように見えた。

「……勝手にしろ、少なくともそいつは私が助かることに不満を抱いているようだが?」
「当たり前でしょ、あたし達の世界はおろかギラティナの住む世界まで壊しかけたんだから」
「ならば何故助けようとする、私がいなくなった方がいいのだろう?私が存在する理由などもう!」

なまえは、ため息をついて立ち上がった。ギラティナと手を繋ぐかのように触覚(?)と手を絡ませる。

ギラティナは嬉しそうに大きな身体をなまえに擦り寄せた。

「別にねいらないと思う、存在理由とかそういうの」
「理由がなければ存在する価値はない」
「う〜ん、価値って言うか……むりやり理由付けたってね、あんたの過去に何があったとか知らないし、知りたいとも思わない」
「……話す義理もない」
「でしょ?自分が何しようと勝手だけど、他人に迷惑がかからない程度にってのが暗黙のルール」
「私がしていたのはルール違反だとでも言うのか?」
「うん、話が逸れたけど存在理由をわざわざつけるより、自分がそこにいたいからいる。そう考えた方が楽じゃない?」

そうだよねー?ギラティナー、とギラティナに問い掛ける。驚いたことにヤツはなまえの問い掛けにゆっくりと頷いた。

理由がほしければ自分で作れと言うことなのか。

「それにねーサタ子さん達が困ってましたよ?ボスはいずこ、本当に新しいエネルギーでもなんたらって」
(サタ子?サターンのことか?)
「まあ、また何か変なことし始めたら何度でも容赦なく潰しに行きますけどね!」

そう言うとなまえはここに来てから初めての笑顔を見せた。決して認めるわけではない。

だが何か肩から降りたような……気がした。

「ま、どーでもいいですけど早くここから出ましょう、ギラティナお願いね!」
「お、おい!」

私の手を取り素早くギラティナの背中に乗せられ、なまえがすぐに後ろへ飛び乗る。

私が乗った瞬間ギラティナにものすごく嫌な顔をされたのは気のせいではない。

下へ下へと昇り下り、目の眩む光りの中へ突っ込んで行く。気が付けば青空の下を飛んでいた。

「いい天気ですね、まずはトバリのギンガビルに行きましょうか!」

「なまえ」
「はい?」
「いや、なんでもない」

雲ひとつない青空の頂点に、以前と変わらず自分達を見下す太陽。それはいつもよりも眩しかった。

視界の隅にビルが見えてきた。

私の腰にぴったりくっつきうるさいまでに騒ぐなまえ、背中から伝わる暖かな温もりが、殺し消し去った何かを思い起こさせた気がした。

「始まりがあれば終わりがある、終わりがあればまた新たな始まりがある。人生いろいろ、先は長いですよ!アカギさん!」
「……ふん」

黒‐全ての終焉
(新たなる始まりと、芽生えた何か)


企画に参加させていただきました。
というか参加から提出が遅くてすみませ。
20081111
 / 

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -