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最近三成の様子が以前に比べ格段と……殊更気色の悪いことになっておる。水色のため息、いや桃色か、やはり水、いや桃……もうどちらでもよいわ。
憂いを帯び、普段の狂犬あるいは凶犬とも称せようあやつが、フゥッと悩むる乙女の如きのため息を繰り返す。鳥肌しか誘わぬ。


「刑部、私は頭がおかしくなったのかもしれん」


突然何を言い出すやらと思えばそんなこと、今に始まったことではない。何も言葉を返さずとも三成はまるで気にした様子を見せず水色……桃、水……いや、想像を絶する鳥肌もののため息を吐いた。
察するに原因はなまえであると断定できるが、理由までは特定できぬ。やれ他の男と挨拶を交わしただの、なまえの腕に絡む女の腕を切り刻んでやるだの、見苦しいこの上ない嫉妬の嵐に間違いはなかろ。


「日々、なまえとの新婚生活の風景が幻覚のように頭の中を占拠する、相違ない未来のことであるから特に問題はないのだが、そのことばかりが思考を埋め尽くすということは早急に結婚すべきだということだろう、しかしここで問題が発生する、年齢の壁だ、法律上はまだ結婚が許されん、例え婚約を交わしたとしても私はなまえを繋ぎ留めておける自信がない、裏切るようなことは絶対に赦させないが、故に部屋に閉じ込めてしまいたいのが本音ではある、私だけのなまえにしてしまいたい、そう、私だけの」


……ウワァ、やれ見たこと聞いたこと。思考が異常なまでになまえに傾いているのが、三成自身も少々やばいやもしれんと微かに思える辺り、まだ正常な精神が残っていると言えよう。
だがそれも時間の問題よ、いずれなまえの名の下に全て愛故で片付けることなど、目に見えておるわ。アイユエニ、そのうち洗礼名でも与えられそうでわれは実に楽し……いや、心配よ。

三成自身の言う「おかしさ」は思考の話、だがわれはそんな話に付き合ってやる気は更々ない、口を開けばなまえが愛いなまえが愛いなまえが愛い、そればかり。
げんなりよ、ゲンナリ。
だからあえてわれは三成が、己の髪型を今更に悔いておるゆえの発言だと思い込むことに決め、ようやく言葉を返してやった。


「……そうよな、ようやっと気付いたと言うべきか(特にその前髪が)」
「やはり!そうか、医者に掛かった方がいいか?」
「……いや、何かと言うと美容院……いや、ぬし自身の手で修正できよう(その前髪を)」


剣の切っ先のような凶器……いや狂気の前髪をじいっと見ながら言葉を選ぶ。三成は全く気付いておらぬ。相も変わらず奇想天外な前髪よ。


「自分でできるものなのか!?」
「……ハサミがあれば十分であろ」
「は、ハサミだと!?おのれ刑部!私となまえの運命の緋色の糸を斬れとでも言いたいのか!」
「……そうかっかするな、糸を切るわけではない、あと必要なものと言えばそう……鏡か」
「(何らかの儀式か!?まじないの類に頼るなど惰弱な!愚劣である!)私はそのような悪趣味に走るほど落ちぶれてはいない!」
「……女子はみな好きであろ?(美容院が)」
「な、何だと!?ならばなまえもそうなのか?」
「……そろそろ行かねばと言っておったと記憶しているが、はて、どうだったか」
「(妙な儀式になまえが?ありえん!)いやまさか、刑部の勘違いという線も……」


やれ、上手いこと話を逸らすことができたわ、三成が頭の良い阿呆で助かった。


「あ、あの、三成くん、いる?」


悶々と思い悩む三成を眺めていると、ふと教室の入り口に珍しくなまえがやってきているではないか、ふむ。後はなまえに三成を任せ、われは早々に退散しやろ。退散タイサン。


「おおなまえ、三成、丁度良いところになまえがきたぞ」
「なに!?」
「ひい!」


クワッ!と言わんばかりの勢いで振り向いた三成は、なまえの姿を視界に入れると立ち上がってつかつかと歩み寄る。おーおー怯えよるわ怯えよるわ。哀れ哀れ可哀想ななまえ、ヒヒッ。


「み、三成く……わたっ私、辞書を借りたくて、あの、英語の……」
「なまえ!」
「はひっ!」
「お前は好きなのか?」
「え……すす、好きって、な、なに?」
「どうなんだ!」
「な、何がってことを言ってくれなきゃ、わかんないよ……」
「お前はわからんというのに通うのか!」
「え、え?だ、だから、何が?」
「妙な儀式にと聞いている!」
「はい!?」
「どうなのだ!」
「ぎ、儀式ってなんのこと?も、もしかして習い事的な意味?あの、私習い事とかは何も……」
「通っていないのか!」
「う、うん」
「ならば刑部の勘違いか、全くくだらん!」


早々に教室を出やり、廊下の曲がり角から三成となまえの様子を見る。結局三成はわれの勘違いとして先の話題を片付けた、何はともあれ一件落着よ。


「あ、あの、三成くん」
「なんだ」
「そもそもなんの話だったの?」


……ああ、やめいなまえ。ほじくり返してくれるな、うやむやで終わらせれば万事解決だというに。


「刑部が、なまえはハサミと鏡を使った儀式に通っていると言い出した」
「ど、どうしたらそんな話題になっちゃうのかなー、なんて、聞いてみたり」
「知らん、頭の話をしていたらそうなった」
「頭?頭とハサミと鏡……」
「女子はみな好きであると、それになまえもそろそろ行くだのなんだの聞いた、と」
「もしかして美容院のことかな、確かに美容院なら行こうかなって思ってたけど」
「び、美容院、だと……?」


やれ困った。薄々気付き始めているらしい三成の表情が徐々に険しさを増してゆく、非力なわれは逃亡が大吉か。


「刑ォ部ゥ……私は頭の中身について話していたというのに、貴様は私の髪型を……おかしいとぬかしていたのだな刑部ゥウウ!」
「ヒィ!よくわかんないけど三成くんご乱心!っていうか辞書、三成くん辞書を……」
「殺してやるぞォオオ!」
「ひえええ!」

(やれ逃げよニゲヨ)
(三成くん落ち着いてー!っていうか辞書貸してー!)

20140622
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