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本日、一限目は尊敬してやまない半兵衛様の授業だったのだが半兵衛様は体調が優れないらしく、別の教師が代理としてやってきた。(名は知らん)半兵衛様の授業でないのならば聞く価値など皆無、刑部にスマートフォンの使い方を聞き、なまえと連絡を取ることに専念した。


「あー石田くん、今は授業中であって手前の授業を聞いて欲しいのだが……」
「黙れ、元々この授業は半兵衛様の神聖な教科、貴様の戯言など聞くに値しない!」
(……手前泣きたい)
「そもそも誰だ貴様は!」
(……手前めっちゃつらい)


半兵衛様の代理の教師は私に背を向け、板書を始めた、しつこく食い下がるようならば容赦無く斬滅してやろうかとしたところだが、奴はすぐに引き下がった。フン、この教室からとっとと失せたら良いものを。


「三成」
「なんだ刑部、さっさと電話の掛け方を教えろ」
「一応授業は聞いていた方が」
「必要ない、この単元はすでに予習済みであり完璧に理解している、何と言っても半兵衛様の授業だ、私に抜かりなどない、いいから電話の掛け方を早くしろ」
「……さよか、あいわかった」


こうしてこう、開いてここにポンと触れるだけよ。刑部が私のスマートフォンの画面を指し示す、なるほどそうか、思いのほか難解である。これは何度も繰り返して覚えねばならんな。


「三成」
「なんだ」
「なまえも授業中、通話は難しいぞ」
「黙れ、掛けてみなければわからん」


早速刑部に言われた通りの手順で画面に触れる、なまえの名が画面に現れ、通話中……の文字が浮かんだのを確認すると、スマートフォンを耳に当てた。刑部の見せる呆れ顔が無性に腹立たしいが、私にスマートフォンの使い方を教授した代償として今回は特別に許してやる。
ただし次はない。


「……刑部」
「どうした」
「……出ないぞ」
「だから言ったであろ、まあメールなれば反応するはずよ」
「ならばメールのやり方を教えろ」
「あいわかった」


3回電話を掛けてみたがなまえが電話に出ることはなかった、刑部の言うようにメールを送ることにする。だがメールのやり方を聞いたはいいが、これは電話を掛けるよりも難解この上ない、ひとまずなまえに何故電話に出ないのかという主旨のメールを送った。返事はまだか。
送ってすぐに返事は来なかろ、気長に待て。と刑部は言う、何故だ。私は気が長くはない、返事はまだか。
やや間があり、スマートフォンの画面が明るくなる、おい刑部何か来たぞこれはどうすればいいのだ、さっさと教えろこれはなまえからの返事だ間違いない、おい刑部!


「はやるな三成よ、メールは逃げぬ、まずはその了解の文字をタップしやれ」
「たっぷ、とはなんだ、わけのわからん言葉を使うな日本語を使え」
「……英語よ、そこを軽くポンと指で触れれば良いのよ、さすれば受信したメールが開く」


言われた通りに液晶を指先で軽く触れると、パッと画面が切り替わり、送られてきたメールが表示された。やはりなまえからだった。込み上げるこの感情の名前はなんだ、感動にも似たこの胸の高鳴りは一体なんだ!きゅん、と音がしたぞ!


差出人 なまえ
20XX/06/30 10:19
件名 なし


授業中だし電話は出られないよ、三成くんの方は自習なの?


「……っ!」
「どうした、三成よ」


なまえから届いたメール、その文末にある疑問符が一定の速さで揺れ動く、なんだこれは!文字が動くのか!……か、可愛いではないか!


「それは絵文字よ」
「えもじ?」
「まあ良い、それはまた後々、今はなまえに返信するのが先よ」
「わかっている」


授業中だ、と打ちたいのだが私の指はすぐに止まった。小さいやゆよはどこにあるのだ!ええいまどろっこしい、いちいち刑部にものを聞くのも面倒だ、小さいやゆよを探すのをやめ、そのまま送信の文字に触れる。
送信されたらしいメールを見て思う、私が自ら進んでスマートフォンを使いたいと思う日が来るなど、夢にも思わなかった。どこもかしこもスマートフォンと睨み合いをする愚図共ばかり、先日はスマートフォンを片手にいじりながら歩いていた奴が廊下で私にぶつかってきたため、殲滅したばかり。
くだらんとさえ思っていたほどだ、こんなものただの連絡手段の一つに過ぎん。
別に持っていようといまいとどうでもよかったのだが、刑部が何かと小煩く持てと言うから仕方なく。
だが今は本当に持っていて良かったと言える、感謝してやってもいいくらいだ。愚図共と同類に成り下がってしまったことが些か腹立たしいが。


「そうだ三成よ」
「なんだ、私は次のメールを作成するのに忙しい」


いい案があるぞ、と刑部がにやりと怪しげな笑みを浮かべ、スマートフォンを指差した。


「ぬし、スマフォの使い方をなまえに教授してもらうというのはどうだ」
「なに……?」
「なまえは律儀で心優しき女子よ」
「そんなわかりきった当たり前のことを今更……男の私が教えを乞うなど弱音を吐くような真似は」
「全く頭の硬い、尊大な態度ばかりではなまえも辟易するであろ」
「……そんなことはない、はずだ……頼り甲斐のある男に女は惹かれるものだと本で読んだ」
「それはいつの時代の本よ、今時そんな態度では一線を引かれるのも時間の問題」
「……どうしたらいい」
「甘えよ」
「甘え、だと?」
「普段頼り甲斐のある男がしおらしく物を頼みにくると、女子は愛おしさが増すらしい」
「このくだらん授業が終わり次第なまえのところへ行ってくる」
「なまえとの距離感も確実に縮むであろ」
「っ!今すぐ早急に即刻行かねば!」
「まあ待て三成、まだ仮にも一応授業中よ、なまえを困らせたくなかろ?」
(……ああもう手前このクラス嫌、あの石田くんほんと怖いつらい)


なまえにスマートフォンの使い方を聞く……ふむ、誰もいない放課後の教室、寄り添って座り、時折触れ合う肩、絡む視線にはにかむなまえ、ふいにぶつかる互いの指先に見つめ合う……そして、そして、そして!!!


「刑ォオオオ部ゥウウウ!」
「やれ三成、落ち着け落ち着け」


これが落ち着いてなどいられるものか。
私はすぐにでもなまえの元へ行くぞ、ええいそんな目で私を見るな!不愉快だ!


(手前もうこのクラスの授業代理受けたくない……もう、ほんといやだ)
(やれ三成、今問題を起こしては後々面倒よ)

20140608
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