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※某ch、某板ネタ
【座敷牢で出逢ったものの話】

怖い話かと聞かれればそうでもない、違和感はあるけど大したものでもないと思う。長期休暇限定のちょっと不思議な体験。

父方の実家に小さい頃は毎年夏休みと冬休みに入る毎に通ってた。昔ながらというか、歴史ある日本家屋、そんな表現がぴったりと言える家。
とにかく広い家で、一日中探検しても全部は回りきれない感覚があった。(錯覚なんだろうけど)

ある日、本当に見覚えのない長い廊下に出て、進んでいくと木製の格子に囲まれた部屋に辿り着いた。
今ならあれが座敷牢と呼ばれるものだとわかるけど、当時まだ幼かった私にはそれがなんなのかわからず、興味津々で恐れもせずに近寄って行った。

そこで出会ったのが「刑部様」
お世辞にも綺麗とは程遠かったけど、私の感性をピンポイントで突いてくる、難しいな、なんて表現したらいいんだろう。第一印象っていうか、この人よくわかんないけど好感持てるかもっていう……まあそんな人(って言っていいのかどうかもちょっとよくわからない)で、平成のこの時代には似つかわしくない袈裟の豪華版みたいな大袈裟な和服を身に付けてた。

特に不思議だったのは、肌が露出してる部分に、全て包帯が巻かれていて(多分身体中全部に巻いてあったんだと思う)袈裟っぽいものを着てるから、ただでさえ肌の露出が少ないのに、顔の半分から下も包帯が巻かれていたこと。
唯一肌が出ていたのは、顔の上半分だけ。褐色の肌、黒くて艶やかな髪は短めで癖っ毛らしく、ところどころぴこぴこ跳ねていたのがちょっと可愛い、なんて。
包帯ぐるぐるで苦しくないのかな、子供心に少しばかり考えて、きっと恥ずかしがり屋さんなんだと自己完結。その包帯ぐるぐるよりももっと興味の惹かれる部分があったから、思考は専らそっちに傾いていた。

目の白目と黒目の色が反転していて、瞳孔が普通の人よりも大きかった、むしろ開いているんじゃないだろうか。小さかった私は瞳孔が云々のことはわからなかったし、不思議な目だなあ、くらいにしか感じていなかったけど。

その座敷牢はずっと奥まで続いているように思えて、向こう側は真っ暗闇で実際ところ広さは全然見当もつない。木製の格子はどこにも扉がなくて、どうやって入るんだろうとか、トイレはどうするんだろう、ご飯は?
しばらく考えて、結局考えてもわからないものは考えること自体を早々に諦めた。

それで本題の「刑部様」について。

彼はきっと私を気に入ってくれていたと思う、多分だけど。面白い話をたくさん聞かせてくれたし、いたずらがバレて両親にこっ酷くしかられ、めそめそしていた時もここに来れば彼は諭しながらも優しい言葉をくれた。


「ぎょうぶ様はなんでそこにいるの?」
「われか?そうよなァ、簡単に言うなれば、われはぬしらとはちと違っておるゆえよ」
「ちがうの?どこが?」
「ヒヒ、知らぬが仏、その方がぬしのためよ」
「ふーん、外には出ないの?」
「出られぬのよ、見ればわかるであろ」
「ドアとかないもんね、ここ」
「われをここから出しやれ、と願えばぬしはわれを助けてくれるか?」
「ぎょうぶ様出たいの?でも私じゃどうにもできなさそうだよ」
「幼きぬしには酷な問いよなァ、まあ良いまあ良い、久々に良い暇潰しを得たわ、やれなまえ」
「なあに?」
「また明日もここへ来るであろ?」
「うん、ぎょうぶ様のお話もっと聞きたいし、おしゃべりする」
「ヒヒッさよか、嬉しきことよ」


他愛のないことばかりの日もあれば、刑部様は「凶王様」や「日輪様」という一風変わった知り合いについても話してくれた。
元々外へ出て野山を駆け回るようなタイプの子どもではなかった私だから、家の中で引きこもるようにおとなしく遊んでいても両親達は特に気にする様子もなく、私は気兼ねなく刑部様のところに通いつめていた。
それに、刑部様を知っているのがなんとなく私だけのような気がしていて、両親も知らないことを知っているという優越感からか、刑部様の話題も存在も絶対に他言せずにいた。

それから数日して、毎度のことながら長期休暇が終わりに近付くと私はナーバスになって、刑部様のところにできる限り長く入り浸れるように朝早くから座敷牢へと赴き、夜も両親の目を盗んでは寝床を抜け出すこともしばしば。
刑部様は「なまえは悪いコよなァ」と口では咎めるものの、満更でもなさそうで、追い返すようなことはしない。座敷牢の木製格子に寄り掛かって頭を撫でてもらったり、髪を梳いてもらったりするのが何よりも心地よくて、刑部様がこっちに出てこれれば、私がそっちに行ければいいのに。

幾度となく考えてはみたものの、口にすると刑部様は微かに、本当に微かにだけど哀愁のような雰囲気をまとうから、おいそれとは言えなかった。
刑部様を困らせたりしたら、二度とここへはこれなくなってしまうような気がして。


「……」
「なまえよ」
「……なあに」
「今日はやけにだんまりよなァ、明日は京に戻るのがそんなに嫌か?」
「……だってとーきょーにかえったらぎょうぶ様とおしゃべりできない」
「ッヒヒ、主はほんにわれを好いておるなァ」
「だいすきだよ!」
「それがまことであればわれもぬしを京に返すのがちと惜しい」
「ほんとだよ!うそじゃないもん!」


引き攣った笑い声、刑部様は格子にもたれかかる私の頭をゆるりゆるりと撫でながら、内緒話でもするかのように私を呼んだ。


「ヤレなまえよ」
「うん?」
「われが好きか?」
「うん、すき!」
「すぐにとは言わぬ、なまえが片時もわれのことを忘れず想い続けることをしやれば……」
「ば?」
「ぬしとわれは永劫共にあろ、なまえがそれを望み続ければの話よ」
「ぎょうぶ様のことずーっとかんがえて、あいたいって思ってればいいの?」
「よいよい、さすればずーっと一緒、イッショよ」


想い続けるだけで一緒にいられる日がくる、これはいいことを聞いたと幼い私はこの言葉を胸に刻み、格子から伸びていた刑部様の手をギュッと握り、唇を押し付けた。
一瞬身を固くしたものの、刑部様はすぐにニヤリと笑って、楽しみよなァ……と意味深に呟いた。


「じゃあいくね」
「あい」
「ぎょうぶ様……」
「ホレ早く行きやれ、別れが惜しいのもわれとて同じ、これ以上辛い思いをさせるでない」
「うん……」
「またすぐに会えるゆえ」
「ほんと?」
「ほんとよ、ホント……ッヒ」


翌日私は東京に帰った。
その日から刑部様のことを忘れたことは一度もなく、何度も何度も会いたいと想い続けた。その翌年からだったと思う、待ち遠しかった長期休暇になり田舎に行ったものの、驚いたことに父方の実家は家を立て直してしまったらしく、まったく構造の違う家になっており、もちろん座敷牢はなくなっていた。
後で聞いた話だけれど、あれは向こうに気に入られた人にしか行けない場所で、会うこともできないらしい。本来は存在しない場所だったってことだ、だから例え家を立て直してしまっても、波長が合えばいつかまた会えるはずだって。


「……そんなこんなであれから十年経ったけど、刑部様に一度も会えてないんだよねー」


忘れたことなんかない、父方の実家にも欠かさず足を運んでいる。しかし刑部様は私に会ってはくれなかった。
理由はわからない、それでも私は諦めずに刑部様にまた会うことができると信じてまた田舎に帰る。

……ヒヒッ。

ふとあの独特な引き攣った笑い声が聞こえたような気がした。

20141014
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