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清々しい朝を迎えて通学路を闊歩、いいお天気の下、かつては平和で平穏な一日が過ごせるはずだった。
そう……「だった」


「おい」
「ひい!み、みみ、三成くん!お、おはよう」
「ああ」


死刑宣告だ、拷問タイムだ、いっそのこと凶王タイムとでも言ってやろうか。地獄の底からやってきたかのような恐ろしい存在、偶然にも今日もまた出くわしてしまった彼の名前は石田三成くん。前衛的過ぎる前髪がチャームポイントの同級生、そして今現在私の彼氏様。身に余り過ぎて光栄どころかありがた迷惑である。


「早いな、今日は日直だったか」
「えと、その、違くて、ちょっと早く目が覚めちゃったから」
「そうか」


ほんとは嘘、三成くんに会わないようにと思って苦手な早起きをがんばった。だって死活問題だもん、実のところ、私は三成くんが怖くて怖くて心底恐ろしくてたまらない、恋人だなんてそんな甘っちょろい存在ではなく、恐怖の対象でしかない。
いつもの私の登校時間帯は三成くんの登校時間と被っているらしくて、今よりも遅く出ると遅刻、だから逆に早く出てみたんだけど……。
なんで会っちゃうんだろう、三成くん陸上部だし足速いもんね、仕方ないの、かなあ。

兎にも角にも、私如きが三成くんと恋人同士なんておこがましいこの上なくてすみません!世の中の三成くんファンの皆さんごめんなさい、不可抗力なんです陰湿なイジメとかはご遠慮ください、後生です。
これには海よりも奈落よりも深い理由がいろいろとあるんです。

三成くんは容姿端麗、クール&スマート(体型的な意味で)部活も陸上部でスプリンターエースだ、期待の星。独特な前傾姿勢の走り方は「恐惶ダッシュ」なんて呼ばれてる。すごく怖い。
頭もいいし、そんな三成くんを女の子達が放っておくはずもなく、非常にモテるのは世の摂理とでも言っておこう。モテるんだけど、ちょっと性格に難有りでとっても怖い一面を持っているのもまた事実。
存外キレやすくて男女関係なく言いたいことははっきり言っちゃうタイプ、意を決して告白しに行った猛者が何人泣きを見たことか……。
「誰だ貴様は私の視界に入るな鬱陶しい!」
そもそも告白の台詞に至る前に、みんなこんな感じの言葉で追い返されているらしいって噂を聞いたことがある。
しかも、理由は知らないけれど徳川くんをひどく嫌っているみたいで、徳川くんがちょっと挨拶をしただけでも「家康ゥ……いえやすゥウウ……イィイエェエヤァアスゥウウウ!」って急に般若よろしく殺気だけで殺せそうな雰囲気を醸し出しちゃうの。
たまたま隣にいた私はそれを目の当たりにして腰をぬかしかけたほどだ、夢にまで見て三日三晩魘された苦い記憶がある。


「なまえ」
「ひゃい!」


三成くんとの恐怖の思い出に浸っていたら、ふいに声を掛けられて盛大に肩が跳ねた上に変な返事が口から飛び出した。


「(ひゃい?)今日は部活が休みだ」
「う、うん」
「放課後、教室に居ろ」
「……うん?」
「いいか、教室に居ろ動くなそこに居ろ」
「は、はいっ!」


ギャン!と効果音が付きそうなほど勢いよくこっちを向いた三成くん、こっ怖い!
放課後、教室?なんだろうどうしよう、三成くんにお説教でもされるのかな、それとも、お前を斬滅する機会を今か今かと……なんてやだー!怖いのも痛いのもやだー!
怖いからいやです私は先に帰ります、なんていう勇気はこれっぽっちもないので、私は首が取れそうなほど勢いよく頷くことしかできませんでした。


(今日も素直可憐で儚く控えめ……その潤んだ瞳が私を狂わせるっ……くそ、何を話せばいい!)
(三成くん怒ってない?なんか怒ってない!?)

20140531
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