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ちくしょう悔しい。現代社会は私に随分と手厳しかった、しかし戦国乱世は現代社会よりも鬼畜だった。


「貴様ァアア!」
「うわあああん!」
「秀吉様に舐めた口をきくなど万死に値する!首筋を晒せ斬首してくれる!」
「秀吉さんにおはよーって言ったくらいで斬首とかもうやだ帰りたいよおおお!お母さんんん!」


平成から戦国乱世にぶらり旅、願ってもないタイムトラベラーになれたというのに。

年々下り坂の日本経済、就職難、温暖化少子化そのほか諸々、徐々に優しさを失う現代社会に鬱々とした毎日を過ごしていた私。高校卒業間近だというのに進学も就職も、方向が全く定まっていないある意味負け組、ニート予備軍として控えていた某日。

容赦なく精神を蝕む現代社会に、そろそろ人生ドロップアウトしたいなあなんて思っていた矢先である、学校からの帰り道、転んだのだ。何もないところで躓いてどういうわけだか蓋のあいていたマンホールに落ちた。
なんでマンホールの蓋があいてんだよふざけんなよマジで訴えるぞ、どこだ、どこに訴えればいいんですか市役所!?わかんないけど訴えてやる!
そういえばマンホールって特殊な形状の棒がないとあけられないんじゃないの?どういうことだ、っていうか今はもうそんなことより落ちてるなう暗い怖い助けてください!

……かれこれ、そうね正味10分?ひゅるるーとありきたりな効果音が付きそうだなんて考えている余裕ができてくるほど落ち続けて、助けてとは願ったものの、まだ落ちている。そろそろ慣れてきたぞこの感覚。
こんなに深い下水があるわけがない、この勢いだと地球の内核まで行ってしまうんではなかろうか、いやまさかものの例えであって、普通に考えたら内核に到達する前に熱で溶けて死ぬけども。とりあえず未だに意味がわからないもしかしてもう死んだ?気付かないうちに死んじゃって、地獄に落ちてるってことなんだろうかこの状況。
就活とか進学の勉強しなくて済むねやったねラッキー、なあんてちょっと思った。


「ギャフン!」
「……なんだ、これは」
「……女の子、だね」
「侵入者ァアア!秀吉様半兵衛様、私にこの者を残滅する許可をォオオ!」


それで急に視界が開けて明るくなったと思ったらお尻から着地、何かの上に丁度すっぽり収まるように着地、ちょっと痛いだけで、尾骨骨折とかそういう悲惨なことにはならなかったけど地味に痛い。
あーよかった怖かった、と口に出して言ったら自分以外の声がして、周りを見渡せば知らない人、そして自分の置かれている状況を見て絶句。私がすとんと落ちた場所は、通常の人間よりも随分と発育の良過ぎちゃった感が否めない大柄な……ゴリラ?いや多分人だと思うけど、なんかごっつ強そうな人のあぐらの中。
目の前には残念なオシャンティ感が溢れるSM風なマスクを付けたオネエっぽく見える多分男の人、女の私より綺麗って意味がわからない。
その横では抜刀コンマ1秒前!な人、尖った前髪がアーティスティックというかモダニズム溢れてるっていうか、ううわほっそ!線ほっそ!「神聖な秀吉様の居城に土足で貴様ァアア」……うん全然良くない状況です、怖い気持ちが現在進行形だった。

どう考えてもやばい、だってさっき尖った前髪の……仮にトンガリくんとしよう……が侵入者とか叫んでたし、それ完全に私だよね。こっち見てたもん私以外にいないもんね、って思ったところで悟った。私は息苦しかった現代社会の呪縛から解き放たれて自由なタイムトラベラーになったのだと。


「秀吉様ァ!半兵衛様ァ!どうか、どうか許可をォオオ!」
「あ、うん、そうだね……じゃあ斬首で」
「安定の死亡フラグ!?ちょっとごめんなさいすみません私怪しくないです!ほんとです、転んだら落ちちゃって何故かここに!」
「貴様わけのわからないことを言うな!許可は頂いた!死ね!」
「やだぁああ!」


ジャキン!と遂に抜刀してしまったトンガリくん、慌てて逃げようとしたけれど、ふと視界からトンガリくんもオネエも消える。消えると言うより、何か大きなものに遮られた、なんだこれ。「待て、三成」ああ、手か!これこのゴリラの手か!


「し、しかし秀吉様!」
「一旦落ち着こうか三成くん、秀吉は待てと言ったよ、だから待てだ」
「半兵衛様……承知しました」


いやいや落ち着けも何もオネエみたいなあなたが「じゃあ斬首で」って、とりあえずビールで的なノリで言ったんでしょ!言い出しっぺが何様ですか、謝れよ、まずは突いて出た失言謝ろうよ!
内心突っ込みの嵐だったけれど私は自重スキルをここぞとばかりに使うことにした。突然の死!なんてのはとりあえず免れたので、フラグの乱立は避けたい、不用意な発言は慎もう、様子見ね様子見。
そう言えばこの人達さっき何気なく名前を呼び合ってたっけ、このゴリラが秀吉で、オネエが半兵衛、トンガリくんは三成と呼ばれていた。ううん、タイムトラベラーなまえ、見たところ随分と古い時代にタイムトラベルしてきた模様。


「貴様、名は」
「あ、はいなまえです」
「どこから来たのだ、間者……ではないようだ、町娘にしては随分と上等な着物、しかしそれにしても面妖な」
「どこからっていうかマンホールに落ちて10分ほど落ち続けたらここに、カンジャって患者?いや私病気とかじゃないです、着物っていうかこれ学校の制服で……」


自分の見に起きたことを包み隠さず素直に話し出したら、そこにいた三人はポカンとしてた。私の言っている意味がわからないらしい、古い時代に来たわけだから現代の単語が通じるわけないか。
困ったな、どうしよう何をどうやって説明したらいいんだろう、手っ取り早く未来からやって来ました!と挙手しながら一言。


「ふざけているのか貴様ァ!叩っ斬られたいのか!」
「この人さっきから私を斬る方向にしか話しを持っていかないんですけど!」
「三成くん、心配はいらないよ、このなまえくんとやらは見たところ人畜無害、放っておけばきっと勝手に野たれ死にしそうな感じだからわざわざ君が刀を汚す必要なんてないよ」
「し、しかし半兵衛様!」
「按ずるな三成、いざとなればわれの拳で一発、心配には及ばぬ」


ご、ゴリラこえええ!確かに拳で人を殺せそう、想像が追いつき過ぎて普通に怖い!それにしてもこのオネエマスク野郎はさっきから失礼極まりないんですけど、悔しいくらい綺麗なお顔で毒吐くの!
野たれ死にしろって?私に野たれ死ねって!?


「ひ、ひど……私だって不可抗力だっていうのに、う、うう、うわあああん!」
「むう!?」


もういい泣いとけ!苛立ちと他にもいろいろ混ざったものを吐き出すように、赤子の如くギャン泣き。大の男三人が慌てふためく姿は実に愉快、自然と出てくる涙に感謝である。

そんなこんな紆余曲折あって、さりげなくここに置いてもらえることになった私は今日も冒頭の如く元気いっぱいに城を駆けずり回っています。時々死亡フラグが湧いて出てくるんですけど、がんばってへし折ってます。


「今日こそ斬滅してやる!」
「馬鹿の一つ覚えみたいな三成さんマジ怖い!」
「誰が馬鹿だキサマァアアア!」


20140706
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