もうすぐ夏休みである。
「おのれ夏休み、このように長期に渡り私となまえを引き離すなどという愚劣を!絶対に許しはしない!絶対にだ!」
「やれ三成よ、そうカッカしやるな暑苦しい」
涼しい顔をしてクールビューティと持て囃される三成くんは熱く語る、みんな大好き夏休みについてひどくご立腹のご様子である。鬱陶しげに大谷くんがいつも通り流して終わり。
かと思いきや。
「夏休みをそう邪険にしてくれるな、学校で会えぬとはいえ互いの家を行き来すればよかろ」
「なに……?」
「なんなら課題合宿と称したお泊まり会でも催せば常に一緒よ、そうさなずーっとイッショ、ひひひ」
怪しく笑って私を一瞥、やめてこっち見ないで私に話題を振らないで!もう嫌な予感しかしない。
「そ、そうか!その手があったか!」
「まどろっこしい授業もないゆえ」
「……大谷くんそろそろ黙ってください」
「ひひひ、おお怖や怖や」
三成くんに余計な入れ知恵をする通常運転の大谷くん、せっかくの夏休み、学校に行っている間よりゆっくりできるんだから休む時はしっかり休みたい。たまに一緒に課題をするくらいであれば、まあお互いの得意科目を教えっこすれば効率もいいと思う。
でも毎日は困る、ずっと一緒はさすがに困る。大谷くんのトンデモ発言の後に三成くんをちら見したら目がマジでした、彼の本気は本気だ、怖すぎる。
「なまえ、夏休みは毎日迎えに行くと誓おう」
「待って三成くん、毎日は……えーっと、ほら、あの、あれだよ!」
「あれとはなんだ」
「えーっとえーっと、あっ!ママのお手伝いとかしなきゃだし!」
「手伝い?」
しどろもどろになりながらなんとか三成くんと毎日合わなければならないという鬼畜イベントを回避しにいく、訝しげに私の言葉を繰り返す三成くんは眉間の皺がどえらいことになっている、怖すぎる。
どうしよう、もう他に全然何も思いつかないよ!義母上への手伝いならば私も手伝ってやるが、とかなんとか言い始めたからこれ詰んだ、私の夏はもはや終わったも同然です。
「そうがっついてくれるな三成よ」
「がっついてなどいない」
「毎日押し掛けてはなまえも辟易するであろ」
「大谷くんが言えたセリフじゃないよねそれ!」
「ヒッヒヒ……なまえが三成の家へ行くのもよかろ」
「大谷くんお口チャックしてー!」
「マァ……冗談はさておき、なまえは花嫁修業をするのであろ?」
「えっ?」
とんでも発言をするのが大谷くんの常だと思っているから、ちょっとやそっとのことではもう驚かない。突っ込むことはするけれど、そうそう驚かない自信があったのに私は大谷くんの一言が全く理解できずに心の中で何度も繰り返した。
花嫁修行?誰が?私だよね、なんで?
にんまりそれはそれは楽しそうな表情で大谷くんは私に問い掛けてくる。
「三成のところへ嫁ぐのに、夏休みを使って花嫁修行をするのであろ?」
「そういうことだったのか、私のために精進を重ねるなまえをもこの目に焼き付けたいが……仕方ない」
「う、うん、そうなの……がんばり、ます?」
結局一週間に1回三成くんのところへ連行されることになって私は手作りお菓子を強要される羽目になりました。大谷くんは機転をきかせたのか余計なお節介をしてくれたのか……もうどっちでもいっか。
20161216
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