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学園祭も終えて、期末試験が迫り来る秋の下旬。平均点が取れてればいいや思考の私はそれなりに勉強をがんばって、煮詰まり過ぎないようにほどほどを心掛けている。
これといって得意な科目がなければ、不得意な科目もない、だからやればやっただけの結果は当然の如くついてくる。そのことについてよく勘違いされるのだけれど、やっただけ結果出ると言ってももちろん限界はあるし、うっかりすることだってある。

その限界というのが暗記だ、繰り返し繰り返しやって覚えるのが少しだけ苦手で、私がテストで点を落としている理由はほとんどがここにあると思う。


「うう……覚えらんない」


一夜漬けは絶対に危険ということは実証済み、テスト当日になると覚えたはずのものがすっぽり抜け落ちる。リスキーな荒技だ。
時間は掛ければ掛けるほど集中力を奪っていくし、教科書の文字がまるで呪文のように見えてくる。兎にも角にも暗記は苦手。


「あ、三成くんからメールだ」


いつもは恐ろしくてたまらないというのに、こういう時は何故か助かった気分になる。そういえば三成くんは今なにしてるんだろう、やっぱりテスト勉強するんだろうか。「なにをしている」開いたメールの文面は実に簡素で明確な問い。


「テスト、勉強中、だよ、三成くんは?……っと」


シャープペンを置いてスマフォに集中、息抜きも大事なのです。送信されたメッセージに早くも返事が来た、と思ったけれどこれはメールではなくて着信だ。


「も、もしもし?」


慌てて画面に表示されている通話ボタンをタップ、少し間があって三成くんの声がした。


『……私も、課題をこなしていた』


電話口越しに聞く三成くんの声はいつもの声とは少し違って聞こえて新鮮だった。電気信号に変換されて少しだけざらついた音声に、不思議と何故だかとても安心する。
三成くんは数学の問題集を終えるところだったようで、私は暗記系をやっているけれどなかなか覚えられない主旨を零したら、一度に全て詰め込もうとするからだって言われてしまった。

確かにその通り、苦手だし時間が掛かるからってどうしても後回しにしちゃうんだよね。それで最後に詰め込み一夜漬け、更には玉砕。負のスパイラル。

三成くんの声だけだからなのか、いつもの恐怖心は留守だった。つらつらと言葉が出てきて普段よりもしゃべれていたと思う。試験範囲についてひとしきり話し込んだ後、ふとお互いに黙り込んでしまってそろそろ切ろうかな、とスマフォを少しだけ耳から離した。


『……おい』
「うん?」


そしたら三成くんが引き止めるように言葉を発したので、返事をしたものの再び黙り込んでしまった。三成くん?辛抱強く待っていると通話口の向こうから深く息をつく音が聞こえてくる。なんだろう。


『なまえ』
「ど、どしたの?」


妙に真剣味を帯びた声色だった。何か言われるのかな、皆目見当もつかないけど怒られるのは嫌だなあ。怒られることなんか何もしてないと思うけど……。
恐る恐る聞き返すと私の心配はあっけなくどこかへと飛んで行った、三成くんは全然怒っていなかったし、想像もしていなかったことを言ってくれたのだから。


『行きたいところはあるか』
「え?」
『試験を終えたら、出掛ける、どこへでも付き合うと約束する』
「え、あっ、それ……!」


つまりデートのお誘い、咄嗟のことで慌てていると三成くんは私が断ろうとしていると勘違いしたようで、珍しくか細い声で嫌なら無理強いはしないが、と付け加えた。
嫌じゃないよ!びっくりしただけ、でも今はどこへ行きたいかすぐに思いつかないから。行きたい場所を考える時間をください、それを伝えれば明らかにホッとしたような息遣い。珍しいものを聞いた気がする。


「三成くん」
『なんだ』
「えっと、試験がんばろうね」
『言われるなでもない』
「行きたいとこも考えておくね」
『ああ』
「あの、ええと、楽しみにしてる、ね」
『っ……!ああ』


三成くん、今どんな顔してるのかな。

(なまえと逢引……なまえと……っ!)

20150527
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