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授業の合間、短い休み時間にいつも通り三成くんは私のクラスに突撃してきた。


「やれ三成、そう前のめりになるな、うっかりなまえと唇が触れてしまうぞ」
「かっ、からかうな刑部!」


今日は大谷くんも一緒だった、ヒッヒと独特な笑い声混じりに大谷くんはとんでもないことを言う。三成くんは真っ赤になってヒステリックに怒鳴るけど、私に向けられる視線は灼熱のなんとやら。
ものすごく小さかったけれど「なまえの……くちびる……」って囁いたのが耳に届いてしまった。私は何も聞いていない、何も。三成くん唇凝視するのやめて。大谷くんは笑過ぎです、過呼吸にならないのかな、それ。ねえ三成くんほんと見過ぎ。

毎回毎回突撃してきて、何か用があるのかと聞いても三成くんは別に、とかなまえの様子を見にきてはいけないのか!とか半分キレかかるから、私ももう何も聞かずにただただ受け入れることにしている。
前に一度、英語の辞書を借りに行ったことがあって、自分の世界に入り込んだ三成くんに辞書を借りるまで随分と手こずった。
あれ以来、もう辞書はいいのか、いつでも貸そう!遠慮は許さない!って結構な頻度で聞いてくるからちょこっと煩わしい、なあんて思ったり思わなかったり。


「なまえ!」
「は、はい!」
「今日、辞書を使う授業はあるのか」
「うん、でも大丈夫だよ、電子辞書あるから!」
「電子辞書、だと……!?」


そしてこの反応である。
ショック受けられても困っちゃうよ。ほら!と見せた電子辞書を恨めしげに睨む三成くん、私の電子辞書を斬滅しないでね!
さりげなく視界から隠そうと電子辞書を鞄にねじ込んだ、その拍子にうっかり落とした鞄の中身が床に零れ落ちて音を立てる。おっとっと。
傍らに転がった鞄の中身に、いつぞやの怪しいドリンクが紛れていた、そうだすっかり忘れてた。明智先生にもらったやつ、捨てようとは思ってたんだけど鞄の奥底に眠っていたみたい。
慌てて散らばった物を鞄に詰め直していると、三成くんも率先して手伝ってくれた。同じ物を拾おうとして手がぶつかると三成くんが乙女のように照れてるんだけど……。
私はスルーを選んだ。


「あ、大谷くん、それ」
「……ヒヒ」


今となっては慣れたからいいものの、相変わらず畳を豪華にしたようなものに乗ってぷかぷか浮いてる大谷くん。その周りには占い師が使うような水晶っぽいものがいくつも浮かんでいて、それを使うと不思議なことに人や物も浮かせることができちゃう優れもの。(未だに原理がわからない)
多分それの作用だと思うんだけど、転がっていたはずの怪しいドリンクが大谷くんのそばで、一緒に浮いている。
大谷くんはそれをじいっと見つめて私が拾ってくれてありがとうって言う前に、にんまり笑うととんでもないことを口走った。


「やれ三成、なまえがこれをぬしに、と」
「え、ちょ!大谷く」
「私にか!」
「さよう、普段からぬしはロクに食べぬからなまえが心配して栄養剤を」
「なんだと!?なまえが私に?なまえが私を心配して?なまえからの……ッ!」
「くれると言えば良いがなァ」
「刑ォオオ部ゥウウ!」
「ヒヒ、もはや聞いておらぬか」


大谷くん時々変なこと言うよね、浮いてた怪しいドリンクをもぎ取って、三成くんが仰け反りながらそれを掲げるようにして持っている。違うから私からの贈り物とかじゃないから、明智先生からの怪しいものだから!
ホレ飲めヤレ飲め囃し立てるのやめて大谷くん「なまえの、聖水……ッ!」三成くんもちょっと聞き方によっては危ないこと口走るのやめて。
怪しいドリンクのビン上部を手刀で斬り落とした三成くん(私、夢でも見てるのかな)一瞬にして中身を一気に飲み下してくださいました、私どうなっても知らないから。どうにかなっても私のせいじゃないから。


「大谷くん」
「ヒヒ、どうしたなまえ」
「なんということをしてくれたのですかあなたは」
「問題があったか?」
「……あれ、明智先生のってこと知ってたでしょ」
「はて、われにはわからぬなァ、なんのことやら」


もはや瓶まで食べてしまいそうな勢いの三成くんを止めつつ、次の授業の予鈴と同時に大谷くんと三成くんは自分の教室へと戻っていった。去り際に三成くんが私をじっと見つめてほんのり笑いかけ、不覚にも心臓が飛び跳ねた。
多分この時から既におかしかったんだと思う。





授業が終わって、先生に頼まれてクラスで使ったプリントを職員室に持って行った帰り、凄まじい足音が後ろから聞こえてきて振り向けば限りなく恐惶ダッシュに近い三成が迫ってきていた。
声にならない叫びを上げて、後退り。足が竦んで逃げることはおろか、まともに歩けすらしないから困ったものだ。私の真ん前で急停止すると三成くんは私の両肩を掴んで、固まった。
ガタガタ震えているみたい、なんだろう、何かを押さえつけるように歯を食いしばって指先が肩に食い込んでちょっと痛い。


「や、やれ三成、待ちやれ、ひ……」


遅れて大谷くんがぜえぜえ言いながら到着、大丈夫かな、またさっきとは違った過呼吸になりそうだよ大谷くん。三成くんと鬼ごっこでもしてきたのかな、珍しい。
それよりもこの三成くんをどうにかして欲しい、さっきから一言もなんにも言わないから怖いよ、指先がどんどん食い込んできてほんと痛い、肩に穴が開くんじゃないだろうか、そんなのいやだ。


「三成よ落ち着け」
「っ私は、十分落ち着い、ている……っ」
「声が震えておるぞ、こんなところで盛ってどうする、ぬしにはまだ早かろ」
「さ、盛っ!?」


ヤレ困ったコマッタ。大谷くんが大きなため息を吐き出して、事情を簡単に説明してくれた。


「先に三成が飲んだアレ、増強剤の類であったのよ」
「増強剤……って?」
「性欲の、よ、セイヨク」
「え」
「興奮剤とも言えるであろ、とにもかくにも三成はなまえが欲しくて欲しくて堪らぬらしいが、困ったことに三成はソッチ方面には疎くてなァ」


三成は童貞よ、ただの童貞ならば別に珍しくもないが、人間の三大欲求のほとんどがないに近いゆえに、こういった怪しい薬でちとどれかを刺激しやると三成の場合、とんでもない効果を発揮する。
三成はソッチ方面には疎い、ナニに至るまでの術を知らぬから今はこうしてギリギリを耐えておる。本人は一体自分が何に耐えているかにすら気付いていないがな。
大谷くんが解説を終えて三成くんを一瞥、当の本人は一言も耳に入っていないらしく、フーッ!と猫の威嚇みたいな深い呼吸を繰り返して私の肩を破壊しようとしてくる。


「ほらやっぱり変な薬だった!どうしてくれるの大谷く、三成くん痛いよ!」
「私を、愛している……?」
「ありえない聞き間違い!」
「安心しやれ、先程効果の持続時間について聞いてきた、5分程度で効果は……」


切れる、そう言ってくれるものだと思っていたのに大谷くんはハテと首を傾げて呑気に私達を見つめている。先のの鬼ごっこもどきですでに5分経過しているはずだが……。大谷くんはそんなことを口にして、今度は逆方向に首を傾げた。


「……切れぬようだなァ」
「誤算!大誤算!三成くんが大変な間違いを起こす前にどうにかしてよ大谷くん!」
「なまえッ!」
「ヒィ!?」
「ど、どうにでもしろなどと、そのようなことを軽々しく口にするな!……い、いや、やはり歓迎するッ!」
「まともな会話すらできてない!」
「おお、そうだわれは用事を思い出した、ではな、後は二人でよろしくしやれ」
「大谷くんんん!?」
「なまえ!私は刑部ではない、三成だ!」


通りすがる生徒はみんな見て見ぬふりしてスルー、誰も助けてくれないし大谷くんは非情極まりなくどっか行っちゃうし、三成くんは目がギラギラして怖いし未だに肩を粉砕しようとするし!
これ以上私にどうしろって言うのー!

(その後明智先生に土下座する勢いで解毒剤をもらいにいきました、三成くんはこのことを綺麗さっぱり忘れていました、大谷くん許さない)

20140929
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