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私が三成くんとお付き合いしなければならなくなった原因は、彼の数少ない私物を拾ってあげたことにある。あれさえ拾わなければ、私はきっと三成くんと接することはまずなかったと思う。
むしろ三成くんがタオルを落とさなければ良かった、とも言える。
後悔してると言えば少しだけ嘘になるかもしれない、でも後悔してないって言うのも嘘になる。
怖い目には何度も遭っているし、正直三成くん自身が未だに怖い、でも時々ちらりと見せる優しいところは……嫌いじゃ、ないのかもしれない。

あれは入学してひと月経ったくらいの、まだ梅雨入り前で、清々しい5月の上旬。


「あー重かった、私が断れない小心者だからって、授業の教材を全部片付けろなんて……明智先生は人使い荒いしなんか怖いし苦手」


放課後、友達と教室でおしゃべりに夢中になっていた時だ、忙しなく廊下を行き来する明智先生。何やってるんだろうとほんの少し様子を見ていたら、運悪く目が合ってしまって、「授業の教材の片付けか実験のモルモッ……いえ手伝いか、お好きな方を」なんて怪しさ100倍の微笑みで言われたら、喜んでお片付けを選ぶよね。
友達は、「私部活行かなきゃ!」って逃げちゃうし、ううん薄情!ほとんど強制的に引きずられて、お手伝いをする羽目に。

たくさんあった怪しい機材をあっちこっちの棚に戻して、非力な私は始終四苦八苦、やっと終わったと思ったら、始めてから1時間も経過してた。
丁度終わったタイミングで明智先生が、お礼と称して栄養ドリンク……かなあ?見たことないラベルの飲み物をくれて、「助かりました、これで精を付けてくださいね」って。
怪しいのでいらないです、とは怖くて言えなかったし後でこっそり捨てちゃえばいいや。教室に戻って、怪しい栄養ドリンクを鞄に捩じ込む、さてと帰ろう、今日のお夕飯はなんだろうなあとぼんやり考えながら玄関へ向かった。

玄関までは途中にコモンスペースと呼ばれる生徒職員の憩いの場、だべり場っていうのかな?があって、いくつかの自販機が並んでいる。そこに差し掛かると自販機の前にポツンと薄紫色のタオルが落ちていて、誰かの落し物だと思ったからついでに事務の前も通ることだし、届けておこうと律儀にも拾ったんだ。

タオルを片手に再び玄関を目指していれば、正面からこっちに向かってくる人、下を向いていてもわかるそのシルエット、あれは……。
特徴的でアグレッシヴなモダニズム溢れる髪型の人物、近付けば近付くほどに威圧感を感じるその存在、石田三成くんだ!

基本用のない人には無視のスタイルを貫き通してるけど、彼は普通の人よりも沸点が低いと聞く、侮辱されれば女子だろうと子供だろうと手加減容赦なく斬滅されると専らの噂。
そんな彼が部活中であろう時間帯、校内をうろうろしているのはいささか不自然だった、下を見てきょろきょろしている、何か探してるのかな、そういえば石田くんって陸上部って聞いたことがある……ん?陸上部?

はて、今私が手に持っているのはなんだったかなあ、確かスポーツタオルだったなあ。数十メートル向こうには石田くん、私はぴたりとその場で立ち止まる。
嫌な予感には気付かないふりをして、持っているスポーツタオルを一瞥、視界の隅っこに写ったのはタオルの隅っこにご丁寧にも刺繍が施されている「石田」の文字。
恐らくとんでもないものを拾ってしまった、逃げてしまおうかとも思ったけれど、後が怖い。きっと石田くんは私なんか眼中にないとは思うけど、この距離なら確実に視界には入っている。
そこでいきなり走り出したやつがいたらきっと石田くんは不審に思ってチラ見くらいはする、私がタオルを持っていることにもきっと気付く、こういう場合は恐怖を忍んでサッと渡してサッと去った方が賢い。うん絶対賢い、当たり障りなく何事もなく終われる。

……よし!
かくして私は石田くんに声を掛けた。

その時、その場にそっとタオルを置いて何気なく立ち去るという選択肢は、動揺し過ぎていたために私の脳内コマンドには表示されていなかったのである。

余談だけど、これをきっかけに三成くんはこの日と同じタオルを何枚も購入して、愛用しているなんてことを私は全く知る由もない。


(おもひでボロボロ、だよね……うん)

20140723
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