BSR | ナノ

私は今、見知らぬイケメンくんに話しかけられている。


「あんたがなまえちゃん?」
「は、はい、そうです、けど……あの、どちら様?」
「あーそんな申し訳なさそうな顔しないでくださいよ、俺が一方的に知ってるだけなんで」
「は、はあ」
「島左近、三成様の後輩ッス」


ツーブロックの今時って感じの髪型、人懐っこい笑顔はきっといろんなタイプの女の子達に人気なんだろうなあ。印象はライト、飄々としていて軽口が日常会話になりそうな、そんなイメージ。
島左近。
彼の名前を聞いて、そういえば大谷くんと三成くんの会話に出てきたことがあったなあ、とふと思い出す。そっか君が島左近くんだったんだ、改めまして宇都宮なまえです。
お辞儀をしながら名前を言えば、島くんも律儀に頭を下げ返してくれた。

三成くんも三成くんだけど、島くんも「様付け」ってすごく不思議、この学校、結構様付けの呼び方してる人多い気がする。なんでだろ?流行ってるの?


「へええ、あんたがねえ……」
「あ、あの……?」


あっちこっちから珍しいものでも見るかのように上から下まで島くんの視線が行ったり来たり。


「ああほんと気にしないでくださいッス、変な意味とか全然ないんで!」
「へ、変な意味?」
「いやあ正直言っちまいますと、三成様の彼女っていうくらいだから、どんな偏屈女かなあと思ってまして」
「へ、偏屈?」
「不躾ですんません、でもいい意味で裏切られたッス!」
「島くん、それは一体どういう」
「俺、お二人のこと応援するッス!三成様にもようやく春が来たんスね、こりゃ刑部さんが張り切るわけッスよ!」


屈託のない笑顔は眩しいくらい、よくわからないけど私が三成くんと付き合っていることを全力で喜ばれているらしい。ここは私もよろこぶべきところなんだろうか、返答に困っていると島くんは私と三成くんの馴れ初めを教えてくれとせっついてきた。
いや馴れ初めなんて大したこともなければ仰々しくもないし、聞いたってつまんないと思うけど……。それでも島くんが、ぜひぜひぜひ!ってぐいぐいくるので、私の人生がひっくり返ってしまった日の出来事を教えてあげた。
近くのベンチに腰掛けて、時々しどろもどろになりながら。





他人が聞いたらそんなちっぽけなことで、って笑うかもしれない。三成くんが私なんかに興味を抱くはずがない、そう言うと思っていたんだけれど、島くんはきらきらしていた瞳を更にきらきらさせて私の両手を掴んだ。


「俺、超感動したッス!」
「え、えええ!?」
「いやあ羨ましいッス!三成様の運命の出逢い、荒んだ三成様の心の拠り所になったわけッスね、オアシスみたいな存在なんスよなまえちゃんは!」
「オ、オアシス……いやそんな私……」


眩しい、眩しいよ島くん。そんなきらきらした視線を向けないで、私そんなに大層な存在じゃないから。私自身も未だに不思議で考えれば考えるほど疑問に思う。三成くんと恋人同士っていう関係になったことを。


「三成様、本当に幸せそうなんスよ!」
「え?」
「なまえちゃんのことは全然教えてくんないんスけど、前に比べて雰囲気が柔くなったっつーか……毎日スマフォの画面をチラ見して微かに笑うんスよ!」


あ、あれかああ……。
思わず頭を抱えたくなった、この前の放課後に不意打ちで撮られたやつだ。三成くん誰にも見せてないよね?恥ずかしい、あんなお間抜けな顔はもう他の誰にも見られたくない。
三成様ってば一瞬ですら見せてくれないんスよーなんて左近くんは唇を尖らせて不満げに漏らす。ひとまずは安心した。


「あれ、そういえば今日は三成様は?」
「三成くんは部活だよ」


今日も普通に部活、いつも通りだ。帰りのホームルームが終わって瞬時に突撃してきた三成くんに圧倒されつつ、今日は部活があるから一緒に帰れない旨を悲嘆がましく伝えられた。
壁際に追い詰められているのを見て見ぬ振りをするクラスメイトに救援の視線を投げ掛けてもことごとくかわされる。悲嘆に暮れる私。
しまいには「羞恥など抱くな、私の目を見ろ」って三成くんが私の頬を両手で包み込んで、むりやり視線を絡ませ、視界を占拠。いやあの羞恥とかじゃなくてですね。
三成くんが部活に行ったら早々に帰ろう、そう思って三成くんと別れた後(三成くんは名残惜しげに最後まで私の頬から手を離さなかった)その矢先に島くんに捕まったという状況である。


「三成くんは部活だから私は先にかえ」
「待ってるんスね!」
「ほわい!?」


え?待つって誰を?さっすが相思相愛って感じッスね!っておかしいおかしい、島くんなんかおかしい!君は何を言ってるの。私の言葉を遮ってまでそんな勘違いしなくていいから。


「やっぱ三成様が惚れ込むくらいッスからどこまでも優しいっつーか健気!」
「や、違っ、私もうかえ」
「きっと三成様ぶったまげちゃいますよ、自分のことを健気に待つ彼女、儚げ!くーっ青春ッス!」


島くん聞いて!私の話聞いて!
一人暴走特急みたいな彼を止める術を私は知らない、早くしないと三成くんの部活が終わる時間になっちゃうよ。それでなくても島くんのところで随分と足留めを食らっているわけだから。
にかっと笑った島くんに未だに両手を握られている状態で困っていると、ふと周囲の温度が下がったような違和感に襲われた。


「左近ンンン……!」


キャアアア!?
私は見てしまった、恐惶ダッシュで迫り来る三成くんを。


「あ、三成様……ってえ、なになになんスか!めっちゃ怒ってらっしゃる!?」
「私のなまえに、私の許可なく触れるとは貴様ァ……余程死に絶えたいようだ」
「げえ!あっ、ち、違うんスよ!ここここれはそういうんじゃなくて、親しみを込めてっつーかゴアイサツっつーか!」
「殺してやるぞォオオ!」


ハッと気付いて慌てて私から数歩距離を取った島くん、三成くんは完全に頭に血が上っているみたい、私は怖過ぎて足が竦んでる。なんも言えない。


「左近貴様ァ……!」
「ひえええ三成様誤解ッス!」
「逃言は許可しない!」


三成くんは痩身のどこからそんな凄まじいパワーが出てくるのか、片手で島くんの胸ぐらを掴むと片手でグワッと持ち上げた。島くんも相当ビビってるとみた。凄まじい図だ。


「いや、ちょ、待っ!」
「私は貴様を赦さな」
「なまえちゃんは三成様を待ってたんス!」
「……なに?」


鬼も悪魔も裸足で逃げ出すほどの形相だった三成くんがふと表情を緩め、こっちにゆっくりと振り向いた。(島くん私に振るのやめてー!)島くんは必死だ、三成くんの公開斬滅ショーから逃れるために。
もちろん私も必死だ、持ち上げられてる島くんの横で絶句してるんだけど、乱立されていくフラグをどうやってへし折ろうかと思考回路試行錯誤。


「なまえちゃんが三成様を待ってるって言ってたんで俺は感動してただけッス!三成様との馴れ初めを話してくれて、ほんとそれだけで!」
「なまえが私を……?」


違うんです違うんです、島くん私何も言ってないよね待ってるなんて言ってないよね、馴れ初めは君が聞きたいってせっつくからあああ!
三成くんは島くんの胸ぐらからパッと手を離し、お尻から着地した島くんはあからさまにほっとしている。私はもう余裕とかとっくに消え失せてる。っていうかそんなもの最初からなかった。
完全に私をロックオン、三成くんは足が竦んで動けない私に迫ると、島くんの時とは打って変わって優し過ぎる声色で囁いた。


「私は部活があると言ったはずだ」
「う、うん、そうだね」
「何故待っていた」


何故っていうか島くんに捕まってて帰るに帰れなかったんです!
そうはっきり言えたらどんなにいいか、意味のない音ばかりを出す口、ああもう意気地なし。


「左近」
「は、はいっ!」
「今回は見逃してやる、早々に去れ!」
「はい三成様また明日お会いしましょーっ!なまえちゃんまた明日!」


脱兎の如くいなくなった島くんに、私の不安は最高潮、ピークを迎えている。じいっと睨み下ろすように私を見ている三成くん、やだなあ怖いなあと思っていたら肩を乱暴に掴まれて、そのまま乱暴に引き寄せられた。
背中に回った腕が躊躇なく、容赦もなく締め上げてくる。言い方を少々甘くすれば抱きしめられていると同義語、でも実際のところ肉体的な苦しみの方が格段に勝っているからどうしようもない。


「……帰るぞ」
「え?」
「礼を、言う……」
「えっと、あの、どういたしまし、て」


少しだけ緩められた三成くんの腕の中で、緩んだ声色が降りてくる。これまでにない感覚が突き抜けた気がした。


(そういえば左近め、なまえに馴れ馴れしく「ちゃん付け」するとは!)
(ヒイ!三成くんの雰囲気が一瞬にして氷点下に!)

20140723
 / 

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -