BSR | ナノ

私のパパは能天気で阿呆だとよく言われます、ママもそれをよく理解しているから阿呆なパパを一生懸命にフォローして、仲良し夫婦円満な家庭を築いています。
以前ママに、パパのどんなところが好きで結婚したのかと聞いたら、パパからの呆れるほどまっすぐで猛烈なアタックに折れたのよ、って教えてくれた。

私もパパやママみたいに未来の旦那さんと仲良し夫婦になれたらいいな。それなりに整った顔は自慢のパパ、でも口を開くと残念で阿呆な人だから、旦那さんにするとしたら私はちょっと嫌。(それを言ったらパパ泣いちゃったんだっけ)
未来の旦那さんは、優しくて笑顔の素敵な人だったらいいなあ、ちょっとくらい夢を見たっていいよね。ぼんやりと思い描いた未来予想図、こぢんまりしてるけど、こだわり抜いた一軒家、程良く陽の入るリビングでまどろむ私と……怖い顔の三成くん。

……いやいやいや待て待て待て。

何故そこで三成くんが出てきたんだろう、確かに今は強制的恋人同士ではあるけれど、必ず結婚するとは限らないもん、まだ決まったわけじゃないもん。

じりり、と鳴った目覚まし時計。不吉な夢を見た、背筋の寒さを覚えて飛び起きた。それにしても怖い夢だった、三成くんと夫婦になっちゃったら……寝ても覚めても一緒、どこでも一緒……トロか!
んーん、三成くんは懐かしいゲームのキャラクターほど可愛くはない、三成くんと結婚だなんてそんな鬼畜な人生ゲームがあっていいわけがない、死ぬまでクリアできそうもない、むしろ死んでもできない気がする。
うう、朝から体力も精神力もごっそり削がれたような気分だ、私は意気消沈のまま朝ご飯を食べようと、自分の部屋を出て階下へ。

そしてデジャヴュのような何か。


「……」
「ヒィ!?み、みみっ、三成く……!」
「なまえ、まーだパジャマのまんまかあ?よく恥ずかしくないな」


どうして三成くんが私の家にいるの?これはまだ夢の続き?どうしてパパと顔を合わせているの?パパはもう仕事に行ったはずじゃないの?


「いやあ今日な、仕事休みだったんだよ、すっかり忘れてて出社して思い出した」
「パパ……」
「それで家に帰って来たらなまえの学校の制服の、えーと見積りくん?」
「……三成、ですが」
「あーそうそう、三成三成!三成くんが玄関の前にいたから何してんのか聞いたんだよ、そしたらなまえを迎えにきたって」


だからって家に上げちゃうの?普通見慣れない男子高校生が娘の家の玄関にいたら不審に思うよね、怖い顔していかにも人を斬滅させるのが趣味ですって物語る目付きの三成くんをどうして上げちゃうの!?
そこは父親として、普通「なんだチミは!」ってなるでしょう!
ああ、そっか!そうだった、パパは阿呆でしたそうでした!


「いやあ、寝ぼすけななまえをわざわざ迎えに来てくれるなんて、いい友達だな!」
「えっ……」


屈託のない悩殺阿呆面スマイルでパパが言い放った、呆気に取られた私は恐る恐る三成くんを盗み見る。それはそれは怖い顔でパパを睨み付けている。(ように見えた)
えっと……いや、あのパパがそうやって勘違いしてくれてるのなら、それはそれで全然構わない。でも、そう簡単に引き下がるような三成くんではないことを私は知っている。


「……お言葉だが、私はなまえの友ではない、です」
「え、そうなの?」


取って付けた敬語と普段のきつい物言いが入り混じっててヒヤヒヤする、高圧的な態度に全く関心を寄せないパパもパパだと思う。突っ込んでよ!なんだその口の聞き方は、って突っ込もうよ!私は怖いから言えないけど。


「え、じゃあ何?まさか彼氏だなんてまさか、なあ?」
「そのまさかだ」


何か文句でもあるのかと、依然として強気な三成くんにぽかーんとしたパパ、きっと言ってくれる!今度こそ、「俺の娘の彼氏だって?俺は認めないぞ!お前みたいな顔が怖いやつなんかに!」ってバシッと決めてくれるはず。
スタンダードなテンプレの如く決めてくれるって信じてる。


「うお、そうだったのか!俺は認めないぞ!どこのポニーの骨かもわから」
「貴様の娘のなまえとは健全なお付き合いをしている、貴様の娘を私に寄越し、行く行くは義父と呼ぶことを許可しろ、拒否は認可しない」


遮ったあああ三成くんパパの言葉を遮っちゃったよー!すごく上から目線で言ってのけちゃったよ!
パパもそこはポニーじゃなくて馬だから、馬の骨だから、ポニーって可愛い!そこ可愛くする必要ないからね!まずは怒ろうよパパ、そこは怒るところだよパパ、ほら!


「……」
「おい、聞いているのか」
「なまえを大事にしてくれるか?」
「当然のことをほざくな、斬滅されたいか」
「じゃあ、いいぞ!許す!」


え?
ちょっと、えええ!パパァアア!軽いっ軽過ぎるよ、相手は三成くんだよ?いつも斬滅とか言ってるんだよ!?顔が怖いし目付きも刃物みたいだし前髪が前衛的過ぎるし……あっ!そうだママ、ママがなんとか言っ……キッチンで涙ぐむのやめてー!素晴らしいイケメンくんを捕まえてきたのね?違うのー!捕まったのー!捕獲されたの捕虜なの人質なのー!


「なまえにもいい人が見付かってママは安心しました、広綱さんみたいに阿呆じゃないみたいだから安泰ね」
「阿呆ってひどいぞー!」
「三成くん、なまえはとってもビビりなところがあるけれど気にしないでくださいね、娘をよろしくお願いします」
「言われるまでもなく承知しております、義母上」
「まあ、嬉しい!」


三成くんキャラ違うよ!パパとママで態度が天地の差だよ!恭しく膝を付いて首を垂れる的な構図は時代錯誤してるから、ママはそんなに偉い人じゃないから、そのうちママの言葉に「御意」とか言いそうだよね三成くん。


「なまえ、遅れる」
「あ、う、うんすぐ支度するね!」


カッ!と釣り上がった目を瞬きもせず見開いている三成くんに急かされ、慌てて部屋に戻る。怖くて口を開くどころじゃなかった私は、心の中だけでツッコミを入れるのに必死、部屋に戻って一人になるとようやく最初の疑問を思い出した。
どうしてわざわざ三成くんが家まで迎えに?約束なんてしてない、昨日だって少ない会話の中、気まずさと恐怖に押し潰されそうになりながら一緒に帰った。でも一緒に行こうとか、迎えに行くとか一言も言ってなかった。
こうやって急に来られると、朝から調子が狂ってしまう。来るなら来るって言って欲しいことを伝えた方がいいよね、うん怖いけどちゃんと言おう。

制服に着替えて持ち物も揃える、充電器に差しっぱなしだったスマフォを手に取ると、ちかちかとランプが点滅していた。メールかなあ、中身を確認すると一通のメール、差出人は三成くんだ。


差出人 三成くん
20XX/07/04 03:35
件名 なし


むかえにいくまっていろ


……うん。
三成くんから連絡来てたね、気付けるわけないよだって朝が早過ぎる、朝の3時半にメール送られてもまだまだ私はグッスリーピング、もしかして三成くんはものすごく早起きさんなのかな。
とりあえず謝ろう、メールをしてくる時間云々は置いといて、気付かなくてごめんねーくらいは言っておこう。あ、でも何時に来るとかくらいは言っておいて欲しかったかな。


「おい」
「ひええ!」


なんの前触れもなく開いた部屋のドア、着替えていたものだから慌てて脱ぎかけたパジャマを羽織る。


「あ、いや、す、すまん!わざとではない!安心しろ!淡い水色の下着など見てはいない!控えめな大きさのリボンが可愛らしいなどとは思っていないから心配はいらん!」
「きゃあああ!」


バッチリ見てたよね!がっつり見えてたことを逆に暴露してるよね、三成くんてばうっかり屋さん、私といえば穴があったら入りたい。お互いにわたわたしちゃって、三成くんは部屋から出ようよ!どうしてちゃっかり部屋に入ってドアを後ろ手に閉めちゃうの!?
お互いにパニックだからおかしな行動をとっちゃうのは仕方がないにしてもこれはない、三成くんあっち向いてあっち!見てないって言ってるくせにガン見っておかしいよー!


「み、三成くんあっち向いてー!」
「そ、そうか、ああ、そうすればよかったのか!」


くるりと集団行動よろしく回れ右をした三成くん、そわそわ落ち着きのない背中とほんのり赤くなった耳が、彼自身もひどく動揺しきっていたことを物語る。
……天然?


「さ、さっさと制服を着ろ!」
「は、はいっ!」
「安心しろ!そ、その柔肌に触れてみたいなど……あわよくばその膨らみに埋れたい……などとは思っていない!大丈夫だ私は決して!そのようなことは!」
「三成くん落ち着いてー!わかったから落ち着いてー!」


こんなキャラなの?三成くんって実はむっつりさんなの?そんな大声出したらパパとママがびっくりしちゃうよ!いつもの倍以上の速さで着替え、鞄の中身も準備オッケー、恐る恐る三成くんにもういいよと言えば、彼も恐る恐る振り向いた。
未だにほんのりピンクに染まった頬、バツが悪そうに視線を行ったり来たりさせている。それがふと一点に止まると、三成くんはおもむろに手を伸ばしてきた。
襟元に滑る細い指先、触れた先は制服のリボン、両端をぴっと整えられる。上を向けば思いのほか近い距離に三成くんの顔。


「……曲がっていた」
「あ、あの、ありがとう」
「……フン」


ほんの少しだけ上向いた口角と、不意打ちのいつもの10倍柔らかい眼差しに、きゅうっと胸がいっぱいになった。


(朝から青春するのは良いけれど、あの子達遅れちゃうんじゃないかしら)
(一緒に遅刻もまた青春の1ページってことで、いいんじゃないか?)

まさかの宇都宮姓、パパは広綱。
20140711
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