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部活の帰り、寮に向かう道すがら隣にいた室ちんがそういえば、とおもむろに口を開いた。


「敦は暇さえあればなまえと一緒だけど……girl friendなのかな」
「なーに室ちん、どゆこと?」
「恋人同士かってこと」
「うんそうだよー……って言いたいところなんだけどねーなまえちんが全然認めてくんないんだよねー」
「認めてくれない?」


そ。おれはなまえちんのこと、ちょー好きで毎日絶対好きだよーって言ってあげてんのになまえちんはおれのことぜーんぜん見てくんない。むしろ避けようとすんの。それになんでか知んないけど室ちんがいろいろつっこんでくるから、なまえちんとの関係だったりおれがどれだけ好きかってことをこれでもかってくらい教えてやった。

幼馴染で一番仲が良くて、昔も今もこれからもずっとずーっと一緒ってことを。


「……そうか」
「なんなの、まさか室ちんなまえちんのこと……?」
「いや、そうじゃないよ」
「なあんだ、よかったーもしすきとか言い出したら捻り潰そうかと思ったし」
「ははは、ジュースの缶が潰れて中身が零れてるよ、敦」
「アララー変なこと聞くからうっかり力入りすぎちったー」


持っていたスチール缶がメキメキと音を立ててひしゃげてる、零れた中身がアスファルトに染みを作って、ぼんやりもったいなかったなあなんて。潰れた缶から残りを一気に飲み干して、通り道にあるごみ箱に投げ入れた。

それにしても室ちんはなんでこんなこと聞いてきたんだろう。なんかもやもやして気分悪いな、そういえばなまえちんと室ちんってクラス一緒だった気がする。ずるい。


「……なんであと一年早く生まれてこなかったんだろー」
「敦はほんとになまえのことが好きなんだね」
「当たり前じゃん、なまえちんのことならなんでも知ってるしーなまえちんもおれのこと……」


理解してくれてる、そう言いたかった。ほんとに、そう?おれの中で誰かが問いかけてくる、ほんとになまえちんはおれのことを理解してくれてるの?途中で言葉が切れた。
小学校の終わりくらいから、妙な違和感を感じていたのは気のせいじゃない。様子が変だったと思う、いつだったのかははっきりわかんないけど中学に上がってその違和感はどんどん膨らんでいってた。少しずつ確実になまえちんは遠のいていってて。


「敦?」


高校の今は昔みたいに笑いあうことが、あんまり、ない。


「……室ちんさあ」
「うん?」
「なまえちんになんか言われたの?」


構ってくれるけど、昔ほどじゃない。なまえちんは間違いなくおれを遠ざけようとしてる。いきなり室ちんがなまえちんとの関係を聞いてきたのは、きっとなまえちんがなにか言ったからだ。もやもやしやものがむかむかしたものに変わってきて、すっげーいらいらする。


「ねえ、なに言われたの、室ちんには言ってどーしておれに言わないの」
「……敦はなまえが本当に好きかい?」
「当たり前っつってんじゃん、何度も聞かないでよ」
「それは一緒にいて気が楽だから?」
「はあ?室ちんばかなの?おれ、なまえちんとずっと一緒っつってんでしょ、ケッコンの約束だってしてあるしー」


そこまで言えば室ちんは少し考える素振りをみせて、そうかと呟いた。なに一人で納得してんの意味わかんね。


「実はなまえが」
「やっぱりーなまえちんがなんか言ったんだ」
「まあとりあえず聞いてほしい、俺がしゃべったことは内緒だぞ?」
「いーから早く教えてよ」
「怖いって言ってたんだ」
「……はあ?」


たっぷり三秒、意味がわかんなくて間が開いた。怖いってなに、おれのこと?なんで怖いの、あーもうわけわかんなすぎてむかつく。


「相談、というほどじゃないがたまたま口をついて出たんだと思う」
「思う?」
「ああ、なまえに敦と本当に仲がいいなって言ったらなまえは困ったように笑って幼馴染だからねって言ったんだ」


そのあと自嘲気味に自惚れちゃいそうで怖いって。

室ちんはなんとも言えない表情でおれを見た。なんでなまえちんがそう言ったのか、たぶんなまえちんとの関係に妙な違和感があるのと関係してる。自惚れちゃえばいいのにそうならないのは……どういうこと?


「俺の仮定を聞いてくれるかい?」
「いーよ、聞いてあげる」
「敦は気付いてるかどうか知らないけどなまえは敦のこと好きだと思うよ」
「なんでわかんのさ」
「なまえ自身無意識なんだろうけど、よく話題が上がるんだ、大半は愚痴っぽいけど愛情の裏返しって感じかな」
「……」
「愚痴っぽいんだけど節々に感じるんだよ、敦を大切に想ってること」
「……」
「でも昔の話はあんまりしたがらなかった、あえて聞いてみたんだけどうまいことはぐらかされてね、何故だかわかるかい?」
「……わかるわけねーし」
「何かあったんじゃないかな、なまえと敦との間に」
「なにかって、なに」
「それはわからないよ、これは俺の仮定って言っただろ?」


何があったのかは、敦にわからないことならなまえに聞くしかないだろうね。
室ちんは事もなげに言う、そんな簡単に聞けたらとっくに聞いてるし。


「やけに慎重じゃないか」
「室ちんなんか勘違いしてない?」
「敦ならなりふり構わず気になったらすぐに突撃すると思ったけど」
「ばかじゃないんだからさあ、おれだって考えなしに突撃はしない……きらわれたくねーし」
「他の部分はぐいぐいいいってるのに?」
「うるせーし」


今日はやけに寮までの道のりが長かった気がする、始終もやもやむかむかいらいらしたけど、なまえちんがおれのことをきらいじゃないってことがわかったからいーや。今、こんな状態になっちゃったのには原因があるはずなんだろーけど、全然さっぱりわかんない、喧嘩らしい喧嘩はお菓子の取り合いくらいで、他に覚えはない。

やっぱ本人に聞いてみるしかないかなあ、聞いたところで教えてくれるかどうかはわかんないけど。

問題はなんて聞くかってことかなー。

201506010
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