WJ | ナノ

部活のない放課後、ホームルームを終えてすぐに席を立つ。思わずにやけそうになる顔を引き締め直しながら何食わぬ顔で歩き出す、走り出したいのも我慢して平常心を心掛けた。

やつらにバレたら何を言われ何を根掘り葉掘り聞かれるか、面倒は極力避けたいがゆえに、僅かながら力み過ぎたらしい。


「ザキーこのあとゲーセン行くけどお前ヒマだよね?」
「なんで俺がヒマ前提で話を振るんだよ」
「えっヒマがヒマしてんじゃねえの?」
「意味わかんねえよ、それに俺はヒマじゃない」
「なーに必死な形相しちゃってんのさザキちゃーん?あっやしー!」
「……」


こいつはまずい、変に勘のいい原のことだ、俺が何を隠しているのかと探りを入れてくる。だがまだ大丈夫だ落ち着け俺、ここで焦って慌てて取り繕えば全ての計画が水の泡。

こいつらに絡まれる前に学校を出るのはやっぱ至難の技だったと痛感する、しかし今日の俺はいつもと違う。まだまだ想定外のことだった時のための作戦をいくつも考えてあるんだからな!
何度も言うが俺は暇ではない、なまえと勉強会という名の部屋デートだ。絶対にバレてはいけない、まず俺に彼女がいることをやつらは1ミリも知らないからだ。バレて根掘り葉掘り尋問されるのも、それをネタにされからかわれるのも嫌すぎる。何よりなまえにちょっかいをかけられるのだけは絶対に阻止したい。

まだ大丈夫だ、だから落ち着け俺、焦るないつも通りで居続けろ。意識してなんでもない風を装うのはなかなか難しい、何でも顔に出やすいタチのせいで余計に疲れる。

相変わらずゲーセン行こうぜとやかましい原を押しのけ気分でないことと金欠であると主張する、ほんっとにしつけえな!早くどっか行けよ原ァ!


「ザキぃ?なーに隠してんのかなー?」
「うるせえな」


なんでもないフリなんでもないフリ、平常心平常心、がんばれ俺!やればできんぞ俺!しかし運はどうやら俺を見離したらしい。


「あ、弘くんいた!」
「およ?」
「うっ!?」


向こうから最高に可愛い笑顔で駆け寄ってくるなまえがいた、やめてくれ今はこっちにくんな、ああ俺の彼女可愛いすぎ天使かよ最高つらい。


「弘くん全然こないから探しにきたよ」
「君さ、もしかしてザキの……コレ?」


すかさず原が小指を立てながらなまえに絡む、最悪の展開だ。なまえははにかみながら原に向かっていい笑顔で頷いた、ああクソ可愛いなクソ!
蹴り飛ばしたくなるような薄気味悪い表情で原が俺を見る、嫌な予感しかしない。さりげなくなまえを庇うように立ち、原から遠ざけておく、いい加減その薄気味悪い顔をやめろ、ぶっ飛ばすぞ!



「ザキって彼女いたのかーふうん……すっげかわいーじゃん」
「えへへどうも、みょうじなまえです」
「なまえちゃんね、よろしくー俺は原一哉だよん、カズくんって呼んでもいーよ!」
「カズく……」
「おいなまえ、こいつの言うことは聞くんじゃねえ」
「あっれーザキってばジェラシー感じちゃったわけ?ぷぷぷザキの嫉妬とかウケるー」
「うるせえ!黙んねえとマジでぶっ飛ばすぞ」


ニヤニヤしっぱなしの原を睨んでも効果は薄いらしい、無視して帰ろうとなまえの手を取ったところで原が思い出したかのように手をついた。


「ああそっかそっか、ザキはデートで急いでたってことか!メンゴメンゴ、じゃあ俺も帰ろーっと」
「原くんばいばーい」
「バーイ!」


すんなりといなくなった原に薄ら寒いものを感じた、あいつが何もせずに帰るだろうか、いやないな。
学校を出ながらも帰り道も警戒しまくっていたのだが、結局何事もなく俺の家に着いた。「弘くん顔怖いけどお腹でも痛い?」部屋でしゃべったり勉強したりしながらも、落ち着かない俺になまえが不思議そうに尋ねてくる。

言葉を濁し、なんでもない気のせいだと言っておいた。心配してくれるなまえの天使具合が辛すぎる、可愛い過ぎて。

途中で俺の家にやつらが突撃でもしてくるかと思っていたが、杞憂だったらしい。来ないならそれでいいじゃねえか、すっかり安心しきった俺はなまえとの時間を思う存分堪能した。

しかあいこの時俺は気付いていなかった。
原のやつが俺の鞄に盗聴器を仕掛けていて、会話を全部盗み聞きされていたなんて。

翌日、悪魔のような花宮を筆頭に朝からからかわれ続けることになるとはつゆ知らず、なまえに可愛いだの好きだの言いまくっていたことをネタにされるとは予想だにしていないのである。

20170411
 / 

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -