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あの女にだらしのない原に本気の女ができた。

根も葉もない噂がいつの間にか定着して数週間。
女にだらしないってひどくなーい?そもそも俺は女の子をはべらせることはあっても、たぶらかすようなことはしたことないんだけどねー。

もういっそその噂通りにしちゃおうかってことで、俺は昨日出会った(というかお互いにきちんと認識し合った)ばかりのみょうじ なまえちゃんに突撃を開始した。おとなしめで俺のタイプではないけれど、普通よりもまあまあ可愛い、従順そうだったしうまく手懐ければいい感じに調教とかできちゃったりして。キャー原くんのケダモノー!なんちゃって。


「なまえちゃーん おっはよーん!」
「は、原くんおはよう」
「こないだはタオルありがとねー助かったよん」
「どういたしまして」
「ねね、ガム食べる?」
「えっ、えっともう授業始まっちゃうから」
「もーなまえちゃんってば偉いなあ、今食べろなんて言わないって、でもあげる!何味がいーい?ミントとグレープとソーダとミックスフルーツと醤油」
「えっ……醤油のガムなんてあるの?」
「あれっなまえちゃんって結構チャレンジャー?いいよー醤油味あげちゃう」
「や、待って!いい、醤油はちょっと、こ、困る!」
「あはっ、うっそぴょーん、醤油味のガムなんてないよーん慌てちゃってかわいー」


ぽかんと間抜けな表情を浮かべ、すぐに赤くなって俯いたなまえちゃん。ガムを選んでもらう前に予鈴が鳴ったから俺の1番のおすすめを机に置いて、自分の席に戻った。薄紫色の包み紙の中身はグレープだ。



俺の昼はもっぱら購買、特にめぼしいものはなかったんだけど腹がうるさく鳴くから適当に選んで買ってきた。昼前の授業が終わったのと同時に教室を飛び出して、またすぐに教室に戻ったのには理由がある。
なまえちゃんと一緒に食べたいから、購買から戻ってきてなまえちゃんはというと、違うクラスからきたらしいお友だち数人と端っこで机を寄せ合っている。そこに突撃する俺、原 一哉、いっきまーす。


「なまえちゃーん」


名前を呼べばぎょっとした表情で振り返っている、周りのお友だちが興味津々といった様子で質問責め。

なまえって原くんと仲良かったの?原くんってたらしで有名な人じゃない?絡まれて大丈夫?何か気に触ることでもしたの?

うわ、すごい言われよう。聞こえてないとでも思ってんの?すっげ普通に聞こえてるからねー。ま、用があるのはなまえちゃんだけだし他の子はどうでもいいから別にいいんだけど。


「あのさ、なまえちゃん借りてっていい?」
「……なまえ、原くんが用があるみたいだけど」
「な、なあに?原くん」
「あんね、俺なまえちゃんと一緒に昼飯食いたいんだけど……あ、なまえちゃんが俺と二人じゃやだってんならお友だちも一緒でいいけど」


選択肢は与えた、ほんとは二人がいいんだけどそれだと萎縮しちゃいそうだしね。ここに混ざってもいいならそれでもいいけど、まあ目立つ目立つ。おとなしめ女子と一緒にいるなんてこと今までなかったから。
にこにこ愛想よく笑ってるつもりで答えを待つ、きっと一緒に食べようって言うんだろうな、なまえちゃん優しそうだし頼まれごととか断れなさそうだよねー。

お友だちの顔色を窺って、最後に俺の顔を見たなまえちゃんは「ええと……」口ごもって再びお友だちの顔色を窺っている。何考えてるのかはわかんないけど、これってもしかして断る理由探してたりすんの?


「なまえ、原くんとお昼食べなよ私たちのことは気にしなくていいしせっかく誘ってくれてるんだからさ」
「えっ」


あっは!ウケる。まさかの展開に俺の口元が大きく弧を描くところだった。こういうのってなんてーのかな、スケープゴート?別に誰も罪なんか背負っちゃいないだろうけど、面倒ごとに巻き込まれたくない精神が強いんだよね、おとなしめな子たちってさ。

まんまと生贄に差し出されているなまえちゃんは何を言われてるのかわからない様子で固まってんの、その間抜け面も可愛いねって言ったら怒るかな。

さて、ここは気の利くお友だちちゃんたちのお言葉に甘えちゃおっか。今度こそにんまり笑って固まったままのなまえちゃんを引きずるように教室から連れ出し、サボる時によく使ってる別棟の空き教室へ向かった。



さて、なまえちゃんはお手製らしきお弁当、かたや俺は味気もなんの色気もない購買のパン。どっちが食べたいかって言われたらそりゃあ女の子のお手製のお弁当に決まってんでしょ。ロマンじゃね?

味の善し悪しよりも手作りってところに重点を置く、そりゃあ美味しいに越したことはないけど。俺のためのものじゃなくても、人が持ってるものって大抵よく見える。わりとあるよね、そういうの。隣の芝生は青い青い。


「な、なあに?」
「んー?なんかさ、なまえちゃんのお弁当うまそうだなって」
「えっ」
「ね、コロッケパンあげるからその肉巻きちょーだい」
「えっ……あ、でもコロッケパンと肉巻きじゃ」
「じゃあこのコロッケパンとカツサンドもあげる、ってことでお弁当ごとちょーだい」
「あ、原くん!?」
「箸も借りるねー」


もごもご言葉にならない音を出してばかり、慌てふためくその手からお弁当を掻っ攫って、自分の調理パンをなまえちゃんの膝に放った。あーやっぱり予想通りこの肉巻きうんまーい、アスパラと肉の相性やばいわ。

このお弁当全部手作りみたい、冷凍食品は使わない主義なのかな?最高じゃん嫁にしたい女の子ランキングの上位に食い込むやつだ。久しぶりに美味いもん食ったって気がする、誰かの手作りってほんと久しぶり。


「あ、あの、原くん」
「んー?なに?」
「お弁当はあげるけど、私パンは2個も食べられないからカツサンドは返すね」
「1個でいーの?」
「う、うん、コロッケパン頂きます」


ちらちらとこっちを気にしながらちみちみと食べ進める姿が妙に可愛く見えた。小動物みたい、俺猫とか犬とか動物きらいだけど。あ、ソースついてる。


「ついてるよん、ぺろりーん」
「っ!?」
「あっれ、どしたのなまえちゃん」
「な、なな舐め、舐めっ!」
「舐めたけど?だってソースついてたし」
「お、教えてくれるだけでいいじゃない、ですか!」


ちょっと舐めただけじゃん、なーに赤くなって焦っちゃってんの?そう続けるつもりだった。


「んふふー」
「わ、笑いごとじゃ!」


続けようとしたんだけど、口が動かなかったのよ。どうしちゃったのか見当もつかない、含み笑いをするだけで精一杯……そう、精一杯?俺が?
笑える、よく考えたら女の子にこんなことするの、実は初めてだったんだ。気が付いたら心臓がばくばくいってるし、まともになまえちゃんの顔見れなかった。伸ばしてる前髪をこれほど重宝したことなんてないくらいに。

なんでこんなに緊張しちゃってんのかな、俺どうしちゃったんだろ。

おっかしいな、女の子ってこんなにいい匂いしたっけ、こんなにやわっこい生き物だっけ、そもそもなまえちゃんって……こんなに可愛い子だったっけ?


「手作り弁当最っ高ー!」
「え、え?」


男って結構ちょろいもんなのよ、ちょっとしたことでコロッといっちゃう。それに俺も漏れずってね。大声出して叫んだのは照れ隠し、ああもううるせえな黙ってろよ俺の心臓。

20161127
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