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見た目も言動も、もちろん性格もいい子ちゃんとはかけ離れていると俺は自負している。俺を含め、霧崎のバスケ部の部員は大体似たり寄ったりのやつらだとも思っている。類は友を呼ぶ、そんなところ。

それが別にどうしたというわけでもないんだけど、最近周りのやつらを見ていて時々思うことが一つある。


「ねーねー花宮くーん、花宮くんはどうしてそんなに性格がブサイクなのに可愛い彼女がいるんですかー?」
「あ?気持ち悪ィ呼び方すんじゃねえよ」
「ねーねーなんでなんで?俺たちの中で最強性格悪いのになんであんなに気の利く彼女持ってんのー?原くんにおせーて」
「……うっせえな、俺が知るかよ」


うーわあ、花宮ってば照れてやがんの、なんかイラッとすんだけど。表面上は猫被りな花宮、可愛くて気の利く彼女とは美男美女の秀才カップルなんて呼ばれてて、花宮も満更じゃなさそうに彼女を結構大事に扱ってる。あの子素の花宮も知ってるし、ほんとこんな悪童とよくもまあ、なあんて思っちゃう辺り俺ってだいぶイヤなやつ?

花宮もそうなんだけど古橋だって、あんな死んだ魚みたいな目をして話とかくっそつまんねくせに、明るくて見てて飽きない感じの子と付き合ってんの。

世の中おかしくなあい?だってさ、俺だって彼女の一人や二人いても変じゃないっしょ。女の子を楽しませるの結構得意だし、女の子の方から話しかけてくることだって珍しくない。
身長だってあるし、別に顔もザキみたいに目付き人相も悪くないはずなんだけど。なんで俺には彼女いないんだろ?
くっだらねーこといっぱい言ったなあ、別にザキみたいにどうしようもなく彼女欲しいってわけじゃないんだけど、ほら、周りが幸せそうだとなんかモヤっとすんの。やっかみ?


「めんどくせえ、ザキのことはとやかく言って自分は棚上げか?」


珍しく黙って俺のやっかみを聞いてた花宮が怠そうに口を開いた。


「んー?」
「どう考えても彼女欲しいんだろ、それ」
「やっばい、俺ってザキと同レベル?」
「かもな」


放課後、西日が差す教室内でクラスメイトがちらほらいる中で俺と花宮は意味もなくだらだらとしゃべり続けている。たまたま体育館の床にワックスをかけるだのなんだのってことで部活は急遽休みになった、きっつい練習がなくなってラッキーハピハピ。

花宮も俺の話を聞いてくれるために教室に残っているわけではなく、委員会か部活かは知らないけど彼女待ち。そこに俺がたまたま話しかけているだけだ、彼女を待つやさしー花宮、卑劣極まりないラフプレー推奨しちゃうくせにいい彼氏面しちゃって、おえー。


「説教垂れるほど俺は偉かねえが」
「あっれ珍しく謙虚?」
「あ?」
「花宮くんこっわーい!めんごめんご、続けていーよ」


ぎろりと音がつきそうなくらい睨まれた、独特な眉の形のおかげでそれほど怖くないよーん、とは口にしない。次の練習で基礎練メニュー3倍とか言われそうだし。

花宮は睨むのをやめてため息を零す、お前自身気付いているのか知らねえが、と続いて首を傾げた。俺が気付いてない?何に?俺に彼女ができないのは俺に問題があるからとでも言いたげ。マジか。


「お前、自分に寄ってくる女のタイプを思い返してみろ」
「わりと可愛い系が多い?」
「バァカ、自惚れんのも大概にしろ、化粧剥がしたらどいつもこいつも能面だろ、やかましい上に品がねえ笑い方、極め付けの頭の弱さにほとほと呆れる」
「うっわエゲツな!言うねえ、確かに間違っちゃいないけどさあ」


尻軽ビッチ、頭の片隅につまんない単語がいくつか浮かぶ。思い返せば見た目が派手で、がんばって作ったらしい鼻にかかった声がいくつも聞こえた気がした。
確かに寄ってくるのは似たり寄ったりの女の子ばっか、揃いも揃って脳みそババロアでできてそうな感じの。花宮の言うことは全部大正解、ぷうっと膨らませたガムがぷすんと小さく音を立てて萎んでいく。

学校生活の中でいつも周りに女の子がいて悪い気はしない、でも別に手ぇ出したいとかどの子なら寝てくれるかとか、そういう目で見てるわけじゃないし、おれにも選ぶ権利はあるっしょ。
第一俺は周りに寄ってくる子と一線を越えたことはただの一度も、誰ともない。そういう期待を込めて寄ってくる子もたまにはいるけどタイプじゃないんだなあ、これが。内心思う、チェンジ。


「純情気取りかよ、きめえ」
「ひっで、別に気取ってねーもん」
「つか原のタイプってなんだ、興味がない上に心底聞きたかねえが、暇だから聞いてやる」
「んー……チャラくない子?」
「漠然としすぎだろ、お前の見た目で言える台詞じゃないことは確かだが」
「俺もわかんない、俺の好みってなんだろ」
「知るかよ」


そういえば、一度だけ流れで付き合った子はいる。入学したばっかの1年の時だ、ギャル系の子にしては珍しく頭のキレる子で話題作りがうまかった。なんの話かは忘れたけどものすごく盛り上がったことがあって、アタシあんたのこと好きかもって言われてその時は何も考えずに、ありがとねん、って言ったんだっけ。
キスはしなかった、手も繋がなかった、しゃべる時の距離は近かったような気がする。結局何もないまま別れたんだけど、別れた原因はよく覚えてる。

煙草。吸ってたのは俺じゃないよん、体力落ちるし俺自身特に吸いたいとも思わないし、ガムのが断然美味しいし。彼女の鞄の中にたまたま見え隠れした煙草のパッケージにひどい嫌悪感を覚えた、それ以来顔を見るのもなんとなくイヤで気が付けば自然消滅って感じ。


「とんだ外れを引いたな」
「だよねーでも早く気付いてよかったかもねん、俺の恋愛歴に危うく傷を残すところだった」


嫌味っぽく笑われ一緒になって自嘲気味に笑う、男2人で恋バナとかめっちゃ気持ち悪、最高ウケる。
不意に花宮がスマフォを取り出して、何かを確認すると椅子から立ち上がった。かわいー彼女ちゃんのお迎えに行くようだ。原くんぼっち、ちょーさみしー。


「お前今日は最後まで気持ち悪ィな、彼女が欲しいんだったら、自分について回ってる女癖悪ィってイメージどうにかした方が懸命だな」
「俺ってそんなふうに見えちゃってる?」
「自分で自分のことを客観的に見てみろ、ついでにそのうざってえ前髪も切っちまえ」
「やーだよーん、ご忠告どーも」


花宮ってば嬉しそうにしちゃってさあ、足早に教室を出ていったのを見送り、気が付けば教室内に残っているのは俺だけになってた。女癖が悪そう、ねえ。誰がそんなふうに言ってくれちゃってんだろ、そんなこと全然ないのにさあ。
明日から女の子としゃべんの控えよっか、うんそうしよ。

噛んでたガムをその辺に落ちてたプリントに出して丸めてゴミ箱にポイ、新しいガムを口に放ってぷうっと膨らませた。弾力のある薄紫色の風船が、いい音を立てて弾けた。



「お前体調でも悪いのか?」
「ハア?なんなのザキがめっちゃキモい、おっといつものことかあ!てへぺろっ」
「てめえ張っ倒すぞ」


部活の休憩中、基礎練がしんどくて体育館の床に無造作に転がっていたら、上からザキが覗き込んできて何故か体調の心配をされた。その顔でほんとやめて今トリハダすごいよ、俺。


「俺のクラスの女子が言ってた」
「なんて?」
「最近原のノリが悪い、とかなんとか」
「だから何?別にその子たちとお友だちってわけでもないしさあ、関係なくね?」
「それもそうだけどよ、お前って周りに女子が多いイメージあっから」


真面目な顔して言い放ったザキの脛を蹴っ飛ばしてやった「いってえ!」やっぱそう見えてるかあ、起き上がって時計を見遣ると休憩はあと数分で終わる。キャンキャンうるさいザキをシカトして、練習が始まる前に頭を冷やそうかと体育館の外にある水道へと向かった。
途中で花宮とすれ違い、遅れるなだって。はいよん。

花宮相手にさっむい恋バナらしきものをしたのが丁度一週間前、女の子との接触を極力避けてみたところ、効果っていうかザキの言うように心配される事案がね。
あの原に彼女ができたらしいとか、彼女にぞっこんで遊びの女を全部切ったとか、根も葉もない噂に尾ひれがばんばんついてきてんの。
もう笑うしかないじゃん、俺のイメージってだいぶねじくれてたのね、みんな見る目なさすぎでしょ。

水道で頭から水を被る、ほどよく冷えて熱気も飛んだ。顔を上げると髪から滴る水滴がTシャツに染みていく。

あり?頭を拭こうと、首にかけてたタオルがないことに気が付いて振り返る。ない。体育館から来る途中に落としてきたのかも、びっちゃびちゃだけど戻れば予備のタオルなんかいくらでもあるし、花宮には怒られるかもだけどまあいっか。
手で適当にわしわし頭をかき回して水気を飛ばす「ひゃ」「およ?」体育館に戻ろうと頭をわしわししながら歩き出したら後ろから変な声、俺まで変な声が出ちゃったよ。

振り返ればおとなしそうな、見覚えのない子がいた。普段の生活の中にいないタイプの子、水が飛んだのかな、そんなことをぼんやり考えていたらふと見覚えのあるタオルがそこにある。


「あ、それ」
「えっと、タオル落としたのを見かけて」
「マジで?ありがとねん、ああそうだ水かけちゃってごめんねー」
「ううん気にしないで、じゃあ原くん部活がんばってね」
「はいはーい、さんきゅ」


おとなしそうだけど結構可愛いっぽかったなあ、おっと早く行かないと花宮にどやされる。拾ってもらったタオルで濡れた髪をがしがし拭きながら走った、なんか新鮮だった。あんまり話しかけられるタイプの子じゃないからってこともあんのかな?
短かったけどしっかりした会話を思い返しながらふと違和感に気付く、あの子は何故俺の名前を知ってたんだろ。ああいう子にまで女好きの原なんて不名誉な感じで名前を知られていると思うとちょっとモヤモヤする。

……なんかヤダ。


「おい原ァ!てめえふざけてんのか!」
「いってー!なになに花宮、急にやつあたり!?」
「やつあたりじゃねえよバァカ、何回パスミスってるかわかってんのか、ザキみたいな鳥頭にでもなったのかよ集中しろ」
「俺なんもしてねえだろ!引き合いに出すなよ!」
「めんごめんご、ザキと一緒だけはマジ勘弁」
「原てめえ!」


練習は集中できなかった、ミス連発で花宮にこっ酷く怒られまくって撃沈なう。練習の後片付けを一人でやらされる羽目になって全く踏んだり蹴ったり、ついてねーの。
すっかり暗くなって片付けを終えて鍵を返し、帰る頃にはもう真っ暗「つっかれたなあ、もう」ひとりぽつん呟いて下駄箱で靴を履き替えてたら、さっきタオルを拾ってくれた子がやってきた。お互いに「あっ」て顔をしてたんだと思う。

その子は控えめに頭を下げて、靴を履き替えてる。ねえちょっと待って、比較的に近い場所から靴を取り出してるってことはこの子俺と同じクラスってことじゃん?こんな子いたっけ、授業中の風景を思い出そうとしても、意識して見てるもんじゃないから全然クラスの様子が思い浮かばない。


「さっきはありがとねん」
「う、うん、どういたしまして」
「えーっと、同じクラスだよね?」
「うん」
「ごめーん、俺人の名前って覚えるの苦手なんだよね」


嘘だ、もっともらしいことを言っておけば自然な感じで名前を聞き出せる。おどけたように言えば彼女はおずおずといったふうに名前を教えてくれた。
多分この時だったんだ。これが俺の人生の転機ってやつ、その時は全然気が付かなかったんだけどね。


「なまえちゃんっていうんだ」


呼びやすくていい名前、俺の中ですとんと何かが腑に落ちる音がした。

20161127
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