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原くんってさ、ダルいとかちょーめんどーとかなんだかんだ言ってほんとはバスケ大好きだよね。


「は?」


ぷす、と情けない音を立てて膨らませていたガムが萎んでいく。隣の席で真面目に自習の課題をこなしているなまえちゃんが課題に視線を落としたまま唐突に言い放った。今日は先生が病気だかなんだか知らないけれど、急遽休みになったらしく自習である。
ラッキーだと思ったのもつかの間、課題に殺されんじゃないのって勢いの量で自習用のプリントが配布された。紙の厚さやばいっしょ、藁半紙のくせに3センチ以上ありそう。うへげろ。
ま、俺はあとで真面目でかわいーなまえちゃんのやつを写させてもらうから余裕「絶対見せないから自力でやってね」余裕じゃねーや、原くんピーンチ。


「つかバスケ大好きって意味わかんね」
「好きじゃないのにがんばるわけ?そっちのが意味わかんない」
「別にがんばってないよーん、サボると花宮がこえーの」
「ああ、バスケじゃなくて花宮くんが好きだからがんばれるってことね、うん、だとしたら納得」
「待って待って、変なこと言うのやめてくんない!?」
「なに違うの?」
「全然違う!そんなトリハダものな発言勘弁だって」


ぞわ、と薄ら寒さが背中を駆け抜けた。バスケ大好きっていうのも薄ら寒いけど、バスケを続ける理由が花宮が好きっていうのはもっときつい。いやむしろしんどい。なんでなまえちゃんが突然そんなことを言い出したのかは謎だけど、俺がバスケを続けるのは単に楽しいから。

もちろんラフプレーも含めて、夢に向かってがんばってるやつらを潰していくことが愉快で仕方がない。花宮じゃないけど他人の不幸は蜜の味ってね。


「やっぱり花宮くんのこと」
「好きじゃないから!」
「……」
「ねえなにも聞いてなかったふりしないで!?なまえちゃんさっきからいっこもこっち見てくんないね!?」
「見る必要ある?」
「目ェ見て話すでしょフツー」
「目ェ隠してるくせによく言えるね」
「俺はなまえちゃんの目、見えるから」
「不平等だと思う」


なんか今日はやけに突っかかってくんのね、どうしたの?女の子の日でも来た?って聞いたらセクハラくたばれって言われた!ひど!

確かにバスケは嫌いじゃない、でも練習はキツイし試合がうまくいかないとイライラするし、正直しんどいし面倒って思うことの方が多い。それでも辞めないで続けていることには正直自分でもびっくりしてる。


「花宮くんたちとラフプレーしてるのが楽しいんでしょ?」
「……」
「何をそんなにムキになることがあるの、素直に好きだよーっていつもみたいに軽い感じで言いなよ」
「なまえちゃんってほんと底意地悪いよね」
「おたくらほどじゃないと思うけど」
「そうじゃなきゃ俺らのマネージャーなんか務まんないか!」


あーもう負け負け、ほんとは大したことしてないふうに見受けられるようにしていたかった。努力なんてしてません、やったらできちゃったよんっていうふうに見せたかった。
だってかっこ悪いじゃん、汗水たらしてヒイヒイ言いながら練習してさ、努力してるやつらの努力を踏みにじるのを楽しみにしてるのに。それ以上に努力してるってことがばれちゃったらなんか矛盾してね?って思うじゃん。


「それに、好きな子を前にしたらやっぱカッコつけたくなっちゃうのがフツーっしょ」
「……は?」


あ、なまえちゃんやっとこっち見た。すっごい間抜顔、ちょー可愛いんですけどやばい。ついでにこんなところで一世一代の大告白ぶちかましちゃった俺の心臓も割とやばい。教室はざわついてるから誰も俺たちの会話なんか聞いちゃいないだろうけど、ちょっと恥ずかしくなってきた。
やっべ、もっとシチュエーション考えた方がよかったり……?なまえちゃん固まっちゃってるし、大丈夫?おーい。


「……や、やっぱり花宮くんのことす、好きなんだね、はは、原くんってば告白する相手間違え」
「間違えてない」
「え」
「間違えてねえよ、好きだって言ってんじゃん」


フリーズから復活したなまえちゃんがフイと顔を逸らしながらしどろもどろにはぐらかした、俺、なんかイラっとしちゃって思わず立ち上がって言ってやった。口調はふざけてたかもしんないけどさあ、本気なんだからふざけんのやめよ?
大して声を張ったわけでもないのにいつの間にか教室は静まり返っていてたくさんの視線がこっちを見てる。うわ、どうしよ、なんか今更だけど俺すんごいらしくないことしてる。


「好き、なまえが好き、ねえなんか言ってよ」


立ち上がってなまえちゃんに一歩近付いた、クラス中の視線を集めながら半ばやけくそ、見下ろす形で言いきってやればなまえちゃんはさっきよりもずっと焦っておバカ丸出しでわたわたしてる。あー可愛い。


「は、原く……一旦座ろ?すっごい目立って」
「好き」
「えっと、いや、あの」
「大好き」
「原くん……!」
「愛してるって言ったらさ、迷惑?」


教室が沸いた、やかましいBGMだけどもうどうでもいいや。これ以上ないくらいに真っ赤になっちゃったなまえちゃんは、半分くらい泣きそうな顔でゆるゆる口を開いた。


「あ、あり、ありが、と……」


大喝采のお祭り騒ぎ、やんや煩くて敵わないけどそんなことよりこれはオッケーってことなんだよね?なまえちゃんも俺のこと好き?って確認したら蚊が鳴くような声で「すき……」だって!いえーいやったねさいこー!

結果オーライってとこじゃね?これで変な奴もなまえちゃんに寄ってこないっしょ、公認カップルの誕生だよーん。

あり?そういえば最初なんの話をしてたんだっけ?自習時間は残り5分。


「やっべプリントいっこも終わってねーや、俺の天使なまえちゃーん、プリント見ーしーてー」
「原くんのことはす、好きだけどそれとこれとは別問題」
「なまえちゃんってば鬼っ畜ー!でもそういうとこも好き!」


ちょっとどもってるとことかグッとくるー!でも自習のプリントあと5分じゃ終わんないよね、おうふ。

20161126
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