WJ | ナノ

眠たくなる午後一の授業、ぼんやりしてきた頭に叱咤を繰り返し、意識が持っていかれないように軽く腕を抓ってみた。気休めの眠け覚まし、全然効果のない悪足掻きを嘲笑う睡魔に困っていると、真横から微かにすうすうと規則正しい寝息が聞こえてくる。

伸ばされっぱなしらしい髪がひと束溢れ、白昼堂々眠りこけているのは紫原くんだ。必死になって起きている自分が馬鹿らしくなってくるほど清々しい居眠り。今の授業の先生は居眠りしようと早弁しようと、煩くさえしなければ滅多にお咎めをしない。
よって一番寝るのにはもってこいの授業なのだが、いかんせん試験が難しすぎるのだ。それゆえに授業を最初から最後まできっちり聞いていないと点が全く取れなくなってしまう。雑談の中にもさりげなく試験範囲をぶっ込んでくるのでどこにも気が抜けるところがないというのに。

紫原くんは実に余裕、しかもこんな授業態度でも高得点をキープしていることを私は知っている。クラスメイトに点数を聞かれていて普通に答えていたのを聞いたことがあるからだ、恥ずかしながら何度か補習を経験したことのある私にとって彼の頭の作りは羨ましい限り。


「……板書」
「え?」
「早く書かないと消されちゃうよ」
「あ、うん、そうだった!ありがと」
「べーつにィ」


さっきまで寝ていたはずの紫原くんの瞳が薄っすら開いていて、バカみたいにガン見していた私と視線が絡む。紫原くんは怒るでもなく、ぼそりと板書をした方がいいと勧めてくれた。
危うく書く前に消されるところだった、ホッとしたのもつかの間板書を終えてペンを置くと、寝る体勢だった紫原くんがのそりと起き出し、長い腕を気怠げにのばしてきた。

さっきまで私が使っていたペンをさらうと、何も言わず私のノートにぐるぐると丸い印を付けていく。突然の出来事に呆気にとられていると、紫原くんは「ここ、絶対出るから」こともなげに言いきった。


「あ、ありがとう……?」
「あのせんせーの授業結構パターンがあるからヤマ当てやすいんだよねー」
「そうなんだ、すごいね紫原くん」
「べっつにー」
「でもどうして教えてくれるの?」
「……誰だって補習はヤでしょー?」
「確かにやだ、でも」
「んー?」


なんで大して仲がいいわけでもない私にわざわざ教えてくれるんだろう、その疑問が頭の中でぐるぐる回ったけれど、口にするのは些か失礼な気がして一度唇を引き結ぶ。
折角教えてくれたのに、そう言ったらなんとなく余計なお世話だと言っているように聞こえなくもないから。補習を免れることのできる好意はありがたく受け取っておくべきだ。

だから少し考えて、違う言葉を思いついた。


「私ばっかり得した気分になっちゃうから、何かお礼させて欲しいんだけど」
「……」
「むりにとは言わないし、ええと」
「……お礼してくれんの?」
「うん、お昼をご馳走するとかでも」
「じゃあさ、今日一緒に帰ろ」
「えっ」
「なに、だめなの?」
「だ、だめじゃない、そんなことでいいの?」
「いーの、それがいい」
「そっか、わかった、じゃあ一緒に帰ろう」
「うん」


その時、紫原くんがふにゃりと嬉しそうに笑った表情が印象的だった。机に突っ伏しながらまた寝る体勢になりつつ、横を向いて笑った。
一瞬飛び跳ねた胸の奥のものがなんだったのか、もう少し彼と一緒に過ごせばもしかしたらわかるのかもしれない。


20161102
恩を売りまくって仲良くなろう作戦むっくん。
 / 

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -