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ゲス極前日譚

俺がなまえと知り合ったのは、あの忌々しい妖怪じみたあの人を通じてのことだった。中学時代の後輩、俺が2年になるとなまえが1年として入学。
いつの話かは知らねえが、なまえがどこかのクズ共に絡まれていたところをあの人が助けたらしい。それ以来なまえはよくあの人にくっ付いていた。


「イマキチさんおはようです!」
「おはようさん、イマキチちゃうくてイマヨシなー?」
「あ、お隣さんはえーとえーと、花宮先輩?」
「あ?」
「花宮先輩もおはようです!」
「……」
「花宮、なまえがおはよう言うてるで、返さな」
「……おはよう」
「えへへ、はいっ!」


たったそれだけだ。
なんでもない挨拶、別に特別なことなんてなんにもなかった。なかったんだが真っ白でネガティヴな感情が一ミリも入っていない、綻んだ表情が強烈に強く深く印象に残った。

それからどれだけの時間が経っても、焼き付いたようにずっとあいつの顔がまぶたの裏側に張り付いている。鬱陶しい、忘れちまいたい、忘れられない、忘れたくない、むしろもう一度、もっと近くで、もっとずっと眺めていたい。

気が付けば、なまえの背中を見つけた途端に走り出し、追い掛けて無意識のうちに手を伸ばしていた。


「あ、花宮先輩!」
「……」
「花宮先輩も帰るとこです?よかったら一緒に帰りましょー?」
「……」
「花宮先輩?」
「笑え」
「はい?」
「俺のために笑え」
「え、えへへ?」
「お前が欲しい」


我ながらどうかしてると思った。俺は何を言っているんだ、アホくせえ。言って後悔、なまえは俺に手首を掴まれきょとんとこっちを見上げている。自分でも自分の行動が理解不能だったせいか、なまえの表情からは何も読めない。いや、焦って読むことができなかった。


「おい、なんとか言……」
「私、花宮先輩のこと好きですよ」
「は……マジかよ」
「先輩は違うんです?」
「……違わ、ねえ」
「自分の欲に忠実というか、正直なところが好きです、前にイマキチさんが言ってました」
「あいつが?なんて?」
「自分のやりたいことやってほんまオモロイでー性格悪すぎて!って」


今吉あの野郎、すぐにでも張っ倒してやりてえ、下手くそな関西弁でなまえはあの人の口真似をした。多分きっと気付かれていたんだろう、俺がなまえを気にしてたってことに。だから俺の本性をあらかじめバラした、恐らくなまえの反応も予想済みだったはずだ。
悔しいことに借りができた、借りだと思いたくはないが感謝くらいはしてやってもいい。ファストフードを奢る程度でいいだろう。


「花宮先輩」
「なんだ」
「私も大して性格よくないので気にしなくていいですよ!」
「ふはっ、そーかよ」
「ね、花宮先輩」
「今度はなんだ」
「手」
「手?」
「掴まれてるの、ちょっとやだからこうやって……繋いでいいですか?」
「聞いてるそばから繋いでんじゃねえか」
「だめでした?」
「好きにしろ、バァカ」


類友?ゲス友?いや、もっと違う……。

20140513
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