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隣の席になった花宮くんは随分と芸達者で名役者らしい、こないだその片鱗を窺わせていた。私は退屈だったスクールライフに終止符を打つために彼をターゲットにして平凡な毎日を蹴っ飛ばしてみることにした。
まず彼はずば抜けて頭がいい、それこそ隣の席だからいやでもわかる。生活態度も花丸を付けたいくらい、品行方正、文武両道とは彼のためにある言葉だ……と言いたいところだけれどそれは上辺だけ。バスケ部としての彼はひと皮剥くとだいぶ捩じくれて歪みきっているらしい。「悪童」なんて呼ばれちゃって、本質は素行が目も当てられないほどひどいとか。
あくまで聞いた話だからほんとかどうかわかんないんだけど、その聞いたことを手っ取り早く調べるとすれば怒らせればいいってことだ。
なんでかって?うん、勘。


「花宮くんごめーん、さっきの授業なんだけど」
「うん?なに?」


授業終了直後、席を立とうとした花宮くんに突撃、にこにこ人のいい笑みを浮かべた花宮くんから返事がくる、さっきの授業でちょっとわかんないとこがあって教えてもらってもいーい?人のいい笑みを崩さず花宮くんは二つ返事で了承。彼は絵に描いたような優等生を演じている、だから断らない。
いい子でいれば誰も彼を疑わない、例え彼が「わざと」誰かを陥れても。
そもそもこう言ってしまった時点で私が彼を「悪童」だと確信しているようなもので、わざわざ調べるまでもないのだが、自分の目で見るまでは理解こそするものの納得できないのである。
本性を知ってどうするのか、その後のことはどうでもいい、気になったことが解決に向かえばそれでいいのだ。納得できれば十分、花宮くんがとんでもない悪童だろうがゲス野郎だろうが、私はそれを肯定もしなければ否定もしない。要するにどうでもいい、ただ単に今気になったことがすっきりすれば満足なのだ。


「……で、ここにこの公式を置く」
「ああ、そっかー私勘違いしてたんだ!」
「そうみたいだね、後は大丈夫?」
「うん平気、ありがとー花宮くん」
「いいよ、このくらいなんでもないから」


さて、ここからが本題である。これからどうやって花宮くんを怒らせようか。おっとこんなところにバスケの雑誌があるではないか!なあんて、これは自分で用意した小細工、霧崎第一の記事が載っているもの。
小さな記事だけど、選手全員が並んで写っているやつだ。(月一で全国の高校バスケ部の部員紹介ってやつ、これ探すの苦労したんだよね)徐にその雑誌を手に取る。


「そういえば花宮くんってバスケ部だったよね」
「ああ、そうだよ」
「すごいなあ、私球技苦手だから尊敬するよースポーツもできて勉強もできちゃうなんて羨ましいなあ」
「やだな、褒めても何も出ないよ?」
「ほんとにすごいって!あ、これうちのバスケ部?」


パラパラと目当てのページまで捲り、手を止める。記事の写真を指差して花宮くんを見れば相変わらず笑っていて頷いた。さてその笑顔の裏側は?
カラーでこそないものの、一人一人が判別できる程度には鮮明な写真。平均的な身長のバスケ部だが、パッと見たところ花宮くんはこの中では一番背が低い、わざわざ全員が写っているものを探すのにはほんと骨が折れた。
この小道具を用意するのに一番時間を取られてたと思う、さてさてこれでうまいこと花宮くんが釣れればいいんだけど。


「その雑誌……どこから」
「わ、花宮くんって一番小ちゃいんだね、周りの人がおっきいんだー」
「……」

この雑誌を見た花宮くんの反応は脈ありと見た、私のセリフは多分わざとらしさが満点だったはずだ。花宮くんの表情が僅かに引き攣って微かに口元が歪む。もう一押し。


「花宮くん身長どのくらいだったっけ?」
「……ひゃくは」
「あ、179センチだったね!前に原くんが惜しい!って言ってたもんね!」
「……」


畳みかけるように言葉を繋ぐ、これは結構いらっとしたはずだ。しかもちょっとサバ読もうとしてたよね花宮くん、ところがどっこい身長だってサーチ済みなんです。段々と黙り込んできた花宮くんから漂う雰囲気がちくちくと刺さるものに変わってきた、相変わらず人のいい笑みは残ってるけれど。


「……みょうじさん、ちょっといいかな」
「ん?いーよ」


すっと立ち上がって花宮くんが私の手首を掴んだ。一瞬ものすごい力で掴まれて、ふっと緩められる。どこへ行くのかなんてわかりきってる、言わずもがなひと気のないところ。超ベタな展開待ってました!教室の棟から随分と遠い空き教室の棟、時間帯的に他の生徒や先生がくることはまずない。ある意味ピンチなんですけれどもここでなまえさんを侮ってはいけません、逃げ足には自信があるので万が一にも対応可能、抜かりはない。

さ、心置きなく素の花宮くんになってちょうだいな、私は確信が持ちたい、この目で見てすっきりしたいのだ。


「……どういう、つもりかな?」
「どう、って何が?」
「みょうじさんはさっきから聞いてると嫌味なことばっかり言ってるから」
「うん、そうだね」


花宮くんはまだ猫を被ってる、怒鳴ってくれていいのに。どんなふうに怒鳴るんだろ、まだかなまだかな。あ、こんなこと言っちゃうと怒鳴られたい嗜虐思考でもあるのかって思われがちだけど決してそんなことはないと一応念のため。私は至ってノーマルです。


「俺のこと、嫌いなのかな?」
「んーん、そんなことないよ」
「じゃあどうしてわざわざ怒らせるようなことを?」
「なんで、って言われると……うーん返事に困っちゃうんだけどなー」
「気を引きたかったのなら、大成功だったと思うよ」
「え?気?」


素の花宮くんが見たいです、と馬鹿正直に言うのは芸がない。どう答えようかと言葉を選んでいたらふと花宮くんが人のいい笑みを引っ込めた。ぞわり薄ら寒い笑みで含んだことを言う。いや別に気を引きたいわけじゃないんですが。


「いつまでも優しい花宮くんでいた俺が馬鹿だったようだ、回りくどいことして時間をむだにしたらしいな」
「ええと?」
「ふはっ、俺の素性がバレてんのは知ってる」
「んん?」


一歩、また一歩とじりじり迫ってくる花宮くんに頭の中で警鐘が鳴り響く。一旦逃げた方がよさそうな雰囲気になってきた。バックステップかまして逃走を図ろう、壁際に追いやられる前に足を真横に出した。それが間違いだった。


「逃がすかよ、バァカ」
「っ!?」


足を真横に出したせいで重心がずれ、一瞬硬直状態になる。そこにすかさず足払いを入れられて私は無様にひっくり返ってしまった。ぱ、ぱんつが!転びながらもめくれそうになるスカートを押さえて起き上がろうにも、間髪入れずに花宮くんが覆いかぶさってくるものだから焦る以外に何ができたと思う?一体どこで何を間違えたんだ。


「お前も存外ゲスだよな、なまえ」
「花宮くんほどじゃございませんが」
「さて、どうしてやろうか」
「とりあえず離し」
「却下、このまま女にしてやってもいいが」
「む、無理強いは犯罪でーす!」
「バァカ、すぐによくなってお前の方から欲しがるのは目に見えてんだよ」
「ひいい、根拠のない自信コワイ!」
「なんだったら試すか?すぐにでも」
「えええ遠慮しまーす!」


押し倒されて、両手も捕まえられて固定され、にんまり笑う花宮くんは月並みにしか言えないけどかっこよかった、イケメンだってことは元々知っていたし他の女子がきゃいきゃい言ってるのも聞いたことがある。だから至近距離はつらい、好き嫌い関係なく腐ってもイケメンだから否が応にも緊張してしまう。


「お望み通り、可愛がってやるよ」
「望んでない望んでなひえぁああ!」


すっと花宮くんの顔が下に降りたかと思えば首筋に吐息、れろ、と生温かいものが這うように触れ全身総毛立つのと同時に変な声が出た。なにがどうしてこうなった!?

それからというもの、花宮くんは毎日のように私を追いかけ回して楽しんでいます。
おいたが過ぎた私と言えば、逃げ惑っている最中、原くんに「結婚式には呼んでねー」なんて茶々を入れられとんでもない方向に話が進んでいることを知り、人生詰んだな、と。

20150611
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