丁度いいタイミングで体育の授業があった、他の能力が通じるかどうか試すチャンスだ、今度はサイコキネシスを試してみようと思う。
今日は陸上競技がメインの授業、高跳びや幅跳び、サイコキネシスを使ってみょうじさんの記録を意図的に伸ばしてみるのだ。
タイミングを合わせてみょうじさんを動かす、力加減が難しいのがネックだが何とかなるだろう。
「みょうじさんファイトー!」
「跳べるかなあ」
まずは幅跳びのようだ、砂場に向かってみょうじさんが走り出した、僕もタイミングを見計らう、ジャンプ地点で踏み切った、今だ!
「わ、みょうじさんすっごーい!」
「めっちゃ跳べてるよ、3.8メートル」
……違う。
これは僕の力じゃない、みょうじさんの実力だ。(元々運動神経はいい方らしい)彼女に僕の力が全く干渉しなかった、そのせいなのだろうか、近くにいた高橋が3.8メートルほど吹っ飛んだ。
オマエジャナイ。
見えない力によって吹っ飛んだ高橋本人は何が起きたのか理解に苦しんでいるようで一人ぶるぶると震えていた、それはどうでもいいとして、ここまで超能力が通じないとなるとさすがに僕もムキになりたくなる。
ちょっとした悪戯心から、サイコキネシスで小さな小石をみょうじさんに向けて投げ付けてみた。
100メートルほど離れている場所にいるみょうじさん目掛けて小石がぶっ飛んでいく、時速100kmは優に超えているから当たったら間違いなく大怪我だ。
もちろんアフターケアも忘れてはいない、当たる寸前でどうにかするから問題はない、あともう少しで直撃する。
更に小石は加速、すると何故か当たる直前に、みょうじさんと小石の間に砲丸投げに使うあの鉄球が通過。
ガン!と音を立てて小石が弾かれ鉄球もその場に鈍い音を立てて落ちた。
……嘘だろ。
「きゃ!あっぶなーい、ちょっと誰よこっちに砲丸投げたノーコンは!」
「危なかったねみょうじさん、大丈夫?」
「え、うん」
ごめん!と駆け寄って来たのは灰呂、どうやら投げ損ねたようだ、こうなるともう疑いの余地がなくなる、みょうじさんの周りには僕の超能力を無効化、あるいは相殺する何らかの力が働いている。
それは僕や周囲の人間に影響を与えるものではなく、みょうじさんを守ろうとするためだけのもののようだ。
ただし、僕が意図的に自ら発したものは相殺されずに周囲に流れてしまうのだが。(例えばサイコキネシスがみょうじさんには効かず高橋に流れてしまったりだとか)
多分これ以上は何を試してもムダだろう、みょうじさんに僕の能力が何ひとつ効かないからといって、燃堂じゃあるまいし、僕に何が及ぶわけでもない、当たり障りなく今まで通りに距離を置いていれば問題などどこにもない。
(さて……)
僕も短距離のタイムでも計測してくるか、物を投げる競技はやっぱり疲れる。ため息混じりに適度な速さで走りっておく、記録は限りなく8に近い7秒台後半、悪くないな。
ふと何の気なしにみょうじさんに意識を向けてみたが、聞こえてくるのは周囲の雑音ばかり、何か喋ってはいるようだがみょうじさんの声だけは無声映画のように全く聞こえない。
高橋が短距離を7秒切ったことを得意げに言いふらしているのは嫌でもはっきりと聞こえた、どうでもいい、そしてどうでもいい。
(これはこれで困ったな……)
かれこれ数十分はみょうじさんを見続けているが、全く透けない。本来普通の人が見えているであろうジャージ、みょうじさんのありのままの姿、一応言っておくとやましい気持ちなどこれっぽっちもないが念のために言っておく。
周囲の人が骨や筋肉まで丸見えになっている中、みょうじさんは笑ってキューティクルが眩しい髪を風に遊ばれながらジャージ姿でそこにいる、これもついでに言っておくと僕は変態じゃない断じて違う。
もう考えるのはよそう、少しムキになり過ぎたみたいだ、疲れてきた、ゆるゆると首を降って僕は幅跳びの計測に向かった。
「えーっと……7メートル?」
「……」
やっちまった。
はじめての意地
20140106
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