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教室から学校の外へと千里眼で視界を飛ばしたが、ムダに労力を使っただけだったことを思い知らされる。みょうじさんの家は見つけることが出来なかった、もしかして僕が行ったことのない場所にあるのだろうか、それならば僕の力が及ばないことにはならないから仕方がない。


「さ、斉木君」
「……?」


ぽそぽそと隣から話し掛けられた、みょうじさんだ。千里眼の視界から戻ってくるとみょうじさんが「先生めっちゃこっち見てるよ、斉木君眠いの?」と前を気にしながら言ってきた。

いや別に僕は眠くなんか……ああ、そうか千里眼を使ってる間は寄り目になってしまうからそれを勘違いしてるんだろう、確かに先生が訝しげな表情で僕を見ていた。


(斉木、起こされたらしいな)


先生の心の声、超能力を使っていると勘繰られるよりはマシな勘違いだ。眠いのかとみょうじさんの問い掛けにも素直に頷いておく、そしたら彼女が小さく笑って焦げ茶色の包みをくれた。


「あげる、コーヒーキャンディなんだけど思った以上に苦いから眠気覚ましになると思うよ」
「……」


眠くはないんだがな、でも好意でくれたんだ、受け取っておこう、僕はまたペコリと頭を下げておいた。このままポケットにしまうのも不自然だろうし食べておくか。

先生にも周りにも気付かれないようにコーヒーキャンディを口にした、みょうじさんは思った以上に苦いと言っていた、思った以上の「以上」が「異常」だ、苦いなんてものじゃないぞこれ。

確かに眠気覚ましにはなる、それにしても苦過ぎるだろ。コーヒー豆をそのまま噛み潰したような味、まさに今の僕の心境と同じだと思う、みょうじさんに通じないいくつかの能力。

……これが最後だ。

僕はまた透視を試みた、視る意思を全開にしてみょうじさんに焦点を合わせる、どうでもいい外野クラスメイトの骨格、下の階の教室が視えた。しかしやっぱりみょうじさんだけは視えなかった。

何故なんだ。


はじめての味

20130520
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