……時は数十分前に遡る。
ドドド、と暴れ狂う心臓を黙れ黙れと必死で抑えつけようとしたけれど、心臓は全く言うことを聞いてくれない。
私、みょうじなまえ。たった今私立PK学園高校に転校してきたばかり、担任の先生に連れられ教室へと向かっているところ。上がり症で緊張に弱いタチだから自己紹介もちゃんと出来るか不安で仕方がない、膝が笑って上手く歩けないし、もういっそのこと何もかも放り出して帰りたい！
そうこうしてる間に教室は目の前、先生が、呼んだら入ってきなさいと言い残して教室へと消えた。ざわつく教室が一瞬だけ静かになる、すぐに入ってきなさい、と先生の声が聞こえた。だめだ死にたくなってきた。
口の中をきつく噛んで緊張に耐える、震える足を鞭打って前に出す、教卓の横に立っているとクラス中の視線が矢のように突き刺さる、もうほんとつらいしんどい怖い！
「あっ、えっと！みょうじなまえです！」
声が裏返った、引き攣る頬、誤魔化すように笑ってみたけど貼り付けたような笑みになってるんだろうな。友達出来るかな、いじめられたりしないかな、不安ばっかりが頭に浮かぶ。
横では先生が「席は、そうだな……」とブツブツ言いながら教室を見回してる。
俯き加減だった視線をほんの少しだけ上げ、先生の真似をして教室を一瞥。出来れば端っこがいいなあ、そんなことを考えていたら、物凄いケツ顎で物凄い凶悪そうな面構えの物凄い不良だろ！的な人が視界に入った。
ひいい！ムリムリムリ怖い、何あの人超怖い！あの近くは絶対やだ、確実に殺されちゃうよ、傷とかあるもん転校初日からカツアゲされそう！あの人の隣だけはやめてください先生！
視線がぶつかりそうになって慌てて逸らした。
う、うわあ……。逸らした視線の先には、あえて無造作を無造作にセットした髪型の人、両手には格闘家みたいに包帯を巻いて制服は肩に羽織るだけ、それになんだろうあのゲンドウポーズ、あの人はもしかしなくても中二病なのかな。これまためんどくさそう、出来ればあの人の隣にもなりませんように！
念じて念じて先生が小さくあそこがいいな、って呟いた。どこ！？
「みんな仲良くするんだぞ、じゃあみょうじの席は……斉木の左側だ」
ぱっと顔を上げて指し示された先は暗いピンクの髪をして、レンズが緑色の眼鏡を掛けた人の隣、極めつけは頭の……飾り？あれなんだろう、新種の髪留めかなあ、変わった趣味をしてそうな人だけどさっきの人達よりはまともそう。
ああ、よかったあ。
教卓からたった今自分の席となった場所へ移動、ええと斉木君って言ってたっけ。
「えと、斉木君、だっけ？よ、よろしくね！」
恐る恐る席について隣の彼に声を掛けた、驚いたような訝しむような複雑な視線を向けられた、どうしようなんか警戒されてる？ええい、ここは笑っておけばいいや！相変わらず引き攣った笑みを出してみる。表情筋が痛い。
斉木君は瞬きもせずに無言のガン見。
「……」
どうしろっていうの、この状況。しばらくガン見されてから、挨拶だったんだろうか、斉木君がペコリと頭を下げてくれた。
人見知り、なのかな？
▼
ホームルームも終わってすぐに授業開始、転校初日だけど授業の準備はしてきてあったから問題はない、やってる範囲も前の学校と差して変わりはない。
問題があるとすれば、強いて言うなら隣の席の斉木君かな。ついさっきガン見から開放されたと思った矢先、何故かガン見が再開されていました怖いよ！
一言もしゃべらないしたまにギッ！って目付きがキツくなったりするし、終いには私の鞄を睨み始めた。
そういう私も逐一斉木君の行動に突っ込みを入れてるけどもちろん堂々と見てるわけじゃない、チラッと横目で一瞥するだけ、転校生だから興味本位でチラチラ見られるくらいなら気にならないし仕方ないけどガン見はつらい。
それに斉木君は顔ごとしっかりこっちを向いているのだ、隣の席ゆえにそれが自然と視界の端っこに映ってしまっている。だから私だって気になるし尋常じゃなく気まずい。
何か言いたいことでもあるのかな、ずっと気まずいのもアレだし単刀直入に聞いてみよう、うん。
「あの、斉……」
授業中だから極力声を抑える、斉木君の方を見て私は驚きのあまり叫びそうになって慌てて口を塞ぎながら勢いよく斉木君から視線を外した。
え、ええええ！？斉木君すごい寄り目になってるんだけどー！ね、眠いのかな眠くなると白目になったり寄り目になったりしてる人ってたまーにいるけど、斉木君の寄り目具合は相当なレベル、半分寝かかってる感じのやつだよ！
さ、斉木君大丈夫かな……声をかけた方がいいかな、先生に当てられたりしたら大変だよね、ましてやあんな顔だし。もう気まずいとか気まずくないとかどうでもよくなって、先生が斉木君に気付く前にこっそり声を掛けた。
エキセントリック
隣の斉木君
20130519
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