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僕の名前は斉木楠雄、超能力者だ。

最初に言っておくが中二病とは一緒にしないでもらいたい、僕は正真正銘の本物である。

超能力なんてロクなものじゃない、こんな力はない方がいいと僕は思う。例えばテレパシー、相手の心の声が聞こえる能力だ、心の声なんか聞こえてもいいことはない。

本音と建前、人付き合いをするのに使い分けなければならないこの二つ、テレパシーがあると本音がだだ漏れ、人間関係はあっという間に崩れ去る。しかもこの能力、最悪なことにオンオフの切り替えが出来ないという欠点がある、僕は毎日否応なしに人々の心の声を聞かされている、聞きたくもないのに。

耳を塞いでも直接脳内に響くから厄介だ、まあ僕はもう慣れたが。それでも時々はうんざりもする。


(学校だりー)
(俺には大天使ミカエルの守護がある、この教室に巣食う低俗悪魔からみんなを救う……ぷぷ)
(あいつなんなのマジうざ)


今日も教室はひどく煩い。


「ホームルーム始めるぞー席につけー」


先生が教室に入ってきた、ざわつく教室で誰かの心の中の声が聞こえる。


(転校生って女の子らしいじゃん)
(なーんだ女か、イケメンがよかったのに)


転校生?僕は首を傾げた。

僕の持つテレパシー能力は半径200メートル以内なら全ての心の声が聞こえてくるはず、だからつまり転校生が来るのならすぐにわかるはずだ、転校生の心の声が聞こえなければおかしい、現に何も聞こえなければ透視で壁の向こうを視ても教室の外には誰も居ない。

一体どういうことだ。


「さ、入ってきなさい」


先生が教室の外に向かって声を掛けた、ドアが開いて入ってきたのは緊張した面持ちの、ごく普通の女の子。変わった様子などどこにも見受けられない、テレパシーが通じなくて透視しても視えないこと以外は。

僕は彼女に釘付けだった。


「あっ、えっと!みょうじなまえです!」
「みんな仲良くするんだぞ、じゃあみょうじの席は……斉木の左側な」


カチコチになった彼女が僕の方へ来る、じっと見つめて見てもまるで変化が見られない、僕にはどんな物をも見透かす透視能力がある、それこそ人間なら骨まで視える。

瞬きや視界から外すことをすればリセットされるのだが、見つめれば見つめるほど対象物が透けて視えるため、最初は服が透け、次に皮膚、最終的に視えるのは筋肉細胞や骨格のはずなのだ。

それなのに彼女はずっと見つめていても全く透けない、普通の人間が見ているものと同じ、学校の制服に普通の皮膚。


「えと、斉木君、だっけ?よ、よろしくね!」
「……」


しかも心の声もまるで聞こえない、どういうことだ、まさか燃堂同様に彼女も阿呆なのだろうか、何も考えていない馬鹿……そうは見えないが。僕はとりあえずペコリと頭を下げておいた。


はじめての不可能

20130519
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