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椿くんに手を引かれながらスケット団の部室を出て、随分と経った。ずんずん歩き続けてまだ椿くんは止まろうとしない、どこへ向かっているんだろう。学校の中ではあまり手を繋いだりイチャイチャなんてことは滅多にしないから、半ば引っ張られるように繋がれた手に今すごくドキドキしてる。

やっぱり椿くんは手が大きいんだなあ、男の子の手だと実感。

「すまない」
「は?」

ひと気のない棟の準備室に入ってピタリと足を止め、振り向いた椿くんは心底すまなそうな表情、さっきの話しは椿くんの中ではまだ現在進行形のようだ。

「その……ええと、手、なんだが」
「手?」
「もう少し、こうしててもいいか」
「う、うんっ!」

生徒会として風紀を乱すことは許し難いことだ、でもそれでみょうじを悲しませたり傷付けてしまうのはもっと良くない……僕は嫌だ、向かい合って椿くんがぽつぽつ話し出す。

あまり使われてない準備室はいくらか埃っぽい。

例の1年生が執拗に付きまとってきていたことの理由を鈍感な椿くんもさすがに気が付いたらしい、彼女にはきちんと自分には恋人がいると言ったそうだ。諦めてくれる様子がなくて仕方なく今は放置、なるべく会わないよう心掛けているみたい。

それだけで嬉しかったし私も心底ほっとした、椿くんなりに考えてくれてたんだ。

「あの時も僕は自分で彼女を抱き上げたりせず、担架を持ってくればよかったんだ!ああなんてバカなんだ僕は……」
「いや、何もそこまで……」
「こうしてみょうじを不安にさせてしまうのも、僕が不安に思うのも今後のためを思うとよくないな」
「そ、そう?」

いつもに増して真剣そのものの椿くんにタジタジ、私をとても大事に思ってくれてるってわかったから私はそれで十分なんだけど、椿くんはそれだと気が済まないみたい。

「そうだ!名前だ!」
「名前がどうかした?」
「苗字で呼ぶのはやめよう、少々気恥ずかしいがその方がいいと思う!どうだろう?」

そういえば付き合う前からずっと変わらず椿くんと呼んでいたし、みょうじと呼ばれていた。それっていい考えかも、親密さが増した感じがする!

「さ、佐介くん?」
「っ!なまえ!」
「最初は照れる、かも」
「確かに照れる、だが僕はもっと呼びたい、もっと呼ばれたい!」

佐介くん、なまえ!佐介くん、なまえ!としばらくお互いの名前を呼ぶだけの奇妙な空間、どちらからともなく噴き出して声を上げて笑った。

「佐介くん!」
「ん?」
「今だけ、ぎゅっとしとこ!」
「こ、こら!」

誰も見てないし、今だけ少しくらいわがまま言っても許してくれるよね。





6thフリリクサルベージ
20131111
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