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不覚だと思いながらどこか期待しているらしい自分に驚いた。


「くーすーおー!」


まるで主人を見付けて構って欲しさに全力で飛び付いてくる犬のようだ、なまえという奴は僕の人生の中で二人目の行動と心の中が読めない人間だ、あの燃堂と同じく阿呆である。言い過ぎ?そんなことはない。


「ねえねえ楠雄、聞け!」
「お?またおめーかよ、相棒になんか用かコラ、あーそういえばなんか甘いもん食いてえなあ!」
「お黙れくださいケツ顎、お前に用はないのですよ、砂糖でも貪り食ってろです」


そして口が悪い、燃堂とも折り合いが悪い、敬語か言葉遣い悪いのかどっちかにしろ。ところで用件はなんだ。しょうもない用件なら消してやる。


「じゃーん新作スイーツですよー、ミルクティ風味のプディング作ってみました!」
「おお、うまそうじゃんか!」
「ケツ顎にはやらんのです、これは楠雄に!」


彼女は将来有望なパティシエの卵、実家がスイーツショップである、僕が彼女を拒めない理由のひとつ、僕はスイーツが全然嫌いではない、それなりに目がない方だ、更に彼女は天才だ、勉強はからきしだがパティシエとしての才能がある。なまえのスイーツはとりわけ食べたい。

普段は何も考えていないくせにスイーツのことになると人が変わったかのように思考回路が一変する、尋常じゃない頭の回転に何度も驚かされている、何度も言うがスイーツに関してのことだけだ。


「結構自信作なのです、楠雄はプディング嫌いでしたっけ?」
「俺は好きだぞ、かなり食いたい!」
「だから黙ってろですよケツ顎このやろ」


なまえがそこまで言うのだから食べないわけにもいかないだろう。

正直コーヒーゼリーの方が断然いいのだがプディングも嫌いではない、特になまえの作ったものは食べておきたい方だ。

器の中でぷるりとたゆたうプディングが僕をそそのかしている、自然と喉が上下してしまった、なまえは器とスプーンを僕に寄越す。


「さあ、召し上がれです」


遠慮なく受け取り、まずは美しい薄茶の滑らかな見目を楽しむ、ふむ、なかなかだ。そしてそっとスプーンでひと掬い、口に運べば芳醇なアールグレイが嫌味のない程度に香る、とろけるようなミルクとの調和が悩ましい。

燃堂がひどく物々しい表情でこちらを見ていたとしても僕はあえて気がつかないふりをした、お前にはやらない、これは僕がもらったものだ、それになまえの手作りを他の奴らに食べさせるのもできる限り避けたい。

ぺちゃぱちゃ煩い燃堂は完全に無視する方針、それはなまえもおんなじらしい、「らしい」と確信的でないのは僕がなまえの思考を読み取れないからである、二度目だが言っておこう、彼女は燃堂同様に阿呆だ。


「楠雄、いかがです?」


不味くない、全然不味くない。

ゆっくりと頷いてやればなまえは綿菓子みたいなふんわり甘そうな笑顔を撒き散らして喜んだ、自分がお店を持てたら商品化しようと言っている、僕は複雑だった、なまえの手作りはずっと僕だけが食べられると思いたかった。

今までなんのためになまえが僕だけにこうしてスイーツをくれるよう仕向けたきたのか、その意味がなくなってしまうじゃないか、でもパティシエはなまえの夢、それを潰すのは造作もないことだが決してなまえを悲しませたいわけではない。

密やかな僕の楽しみを他人に取られたくないだけだ、燃堂、お前も例外ではない、なまえの作るスイーツを独り占めしたい。


「楠雄!明日はコーヒーゼリーアラモードなんてどうでしょう?」
「お!いいねえ!」
「黙れってんですよケツやろ」


ふむ、僕も同意見だ。燃堂、少し全力で黙っていてくれ、そして明日は学校を休め。僕は何がなんでもコーヒーゼリーアラモードを食べなければならない、これは人類史上歴史に残るスイーツになるだろう。


「楠雄はいつも美味しそうに食べてくれるから嬉しいのです、私、楠雄が大好きです」


!!!

思っていた以上に僕は彼女にのめり込んでいるらしい。

20130514
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