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ガシャンとひどく重たい音が薄暗い部屋に響いた、高い場所にある窓は明かり取りなのか空気の入れ替えのためにあるのか。ただ、どちらにせよ申し訳程度の光しかさしてこない上に、脚立を用意しなければ届かないほど高い場所にあるため空気の入れ替え、というのもいささか考えにくい。(埃が積もりに積もって最後に開けたのは一体いつなのだろうか)

そんな窓からの脱出は無理であると早々に見切りをつけ、窓以外で唯一の出入り口である重厚な扉を睨んだ。

「そんなに見つめてくれるな、さすがの俺も照れる」
「どの口が言ってるの、それに見つめているわけじゃなくて睨んでいるんだけど」
「そう変わらないだろう、どんな感情にせよなまえの意識が他の誰でも何でもなく俺に向いている、嬉しいことじゃないか」
「それって嬉しいの?そもそも康次郎の表情筋壊れてない?全然嬉しそうに見えないんだけど」
「心配してくれるのか、ああ……やはりなまえは俺のそばにいるべきだ」

普段から死んだような目をしている彼、古橋康二郎はクラスメイトであり私の彼だ。趣味がガーデニングでパン作りが得意だと聞いた時は変わり者だと思ったが、性癖までも変わっているときた。これは今知ったことである。

放課後、突然呼び出されたかと思えば人気のない体育館の倉庫前に連れてこられ、あれよあれよという間に一緒に閉じ込められた。

なまえを独り占めしたい、片時も離れていたくないと言われて浮かれかかったのもつかの間、誰の目にも触れさせたくないから監禁させろと口走る。鉄仮面で何を考えているのかいまいちわからず、掴みどころのない人ではあるけれど、付き合ううちに小さな嫉妬もされればほんの僅かな照れも気付けるようになってきた。

思っていたよりは感情豊かな彼は、表に出にくいだけであって根本は健全なごくごく普通の男子高校生である。とさっきまでは思っていた。

「康次郎ってばむり言わないでよ、監禁なんてできるわけないじゃない、場所に困るし私がいなくなったら両親に捜索願を出されてニュースにもなるんだよ?」
「わかってる、それほどお前を愛しているんだと表現したかったんだ、今の俺ではむりだと理解している」
「怖いこと言うのやめてよ」
「愛してる、なまえを愛してるん」
「いい加減くだらねえ小芝居をやめてさっさと部活にこい」

ガァン!と重たい音を響かせて一触即発の緊張状態だったその場の空気を変えたのは花宮くんだ、我らが霧崎第一のバスケ部監督兼部長である。
体育倉庫の重たい扉は花宮くんのスーパー悪童パワーでどうにかしてくれたらしい……いや、嘘。本当は体育倉庫に鍵はなくて、出入り口に康次郎が立っていて塞いでただけなのだ。

「花宮……今いいところだったんだ、邪魔してくれるな」
「うるせえよ、練習時間は限られてんだからさっさとこい」
「すぐにか」
「すぐだバァカ、つか何やってんだよこんなとこで」

微かに軽蔑にも似た視線を康次郎と私に注ぐ花宮くん、やましいことに発展しそうな空気を目敏く感じ取ったようで、呆れすら滲ませている。そういうのは家でやれよ、うん私もそう思う。

「こういうのはシチュエーションが大事だろう、監禁ごっこをやっていたんだが」
「はあ!?」
「監禁ごっこだ」
「……ガチでバカやっていやがった」
「ごめんね花宮くん、康次郎がどうしてもって言うから、部活が始まる前には終わらせようと思ってたんだけど」
「こいつが予想以上に暴走したんだろ」

そう、すべて「ごっこ」遊びだ。どういう風の吹きまわしかはわからないが、康次郎が突然私を監禁してしまいたいと言ったのが事の始まりである。
ちょっと遊ぶだけのはずが、結構ノリノリになってしまった康次郎は止まらなかった。あわよくばこのまま……とわりとガチな表情をしていたから私も若干焦っていた。このまま花宮くんが来なかったら本当に危なかったかもしれない、康次郎ってガチで病んでる?

「ハァ?お前彼女のくせに古橋の性癖も把握してなかったのかよ」
「はい?」
「異常な執着、想像もつかない嫉妬心、常識外れの独占欲はこいつの代名詞だろうが」
「いや待って代名詞多くない!?」
「なまえ、あまり花宮と話してくれるな、殺してやりたくなる」

ひゅ、と胃の辺りが氷でも丸呑みしたかのような錯覚を覚える、花宮くんが言うように康次郎はガチでヤバい人のようだ。さっきからバカバカバァカと小煩い花宮くんを康次郎が本気で危ない目をして見ている、それを花宮くんはわかっているようでも知らん顔。

強過ぎかよ。

「古橋」
「なんだ」
「ごっこ遊びもいいが、犯罪者のレッテルを貼られるようなヘマはするんじゃねえぞ」
「ああ、うまくやるさ」

花宮くんはそれ以上言及することなくくるりと踵を返してその場から去って行ってしまった。ちょっと待ってください、今のやり取りはどういうことでしょうか。
ジリジリ近付いてくる康次郎が怖過ぎて直視できない、ごっこ遊びのつもりがとんでもないことになっている気がする。

ガァン、と再び重たい音を立てて閉められてしまった体育倉庫の扉、心なしか嬉しそうな康次郎をチラ見してしまって私は放心するほかなくなっていた。

20180217
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