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部活中の小休止、数分程度の休憩時間。たまたまベンチで隣に腰掛けてタオルで汗を拭っていた赤司くんと、これもたまたま1軍のマネジメントに来ていたなまえさんに、僕は交互に視線を向けていた。

小学校からの付き合いだという赤司くんとなまえさん、単なる些細な、本当に小さな好奇心から僕は赤司くんに尋ねてみたんです。それがこんなにも大きな後悔を生むとは夢にも思いませんでした。


「赤司くん、聞いてもいいですか」
「ああ、なんだい"テツヤ"」
「今日は"僕司"くんでしたか」
「"僕"では都合が悪かったかな?」
「いえ、どちらでも構いません、些細なことですから」


そうか、と言ってクリップボードに何かを書き込んでいるなまえさんに一瞬視線を向けてから赤司くんはにこりと笑んだ。質問を受けてくれる姿勢になったのを見て、僕は口を開く。


「赤司くんは進路、決まっていますか?」


どこの高校に行くか決めているかどうか、ありふれた問いかけ。特に深い意味はなく、単なる雑談としての言葉。


「まだ明確な答えは出ていないな、いろいろ吟味しているところだよ、そういうテツヤはどうなんだい?」
「僕もまだ決めていません、まだ遠い話のような気がして」
「確かにそうだね、しかしその時が来るのは思っているよりも早いだろう、光陰矢の如しというくらいだから」
「そうですね」
「それに」
「はい?」
「どこの高校かはまだ決まっていないが僕は必ずなまえと同じところに行くつもりだ」


赤司くんはまたなまえさんを熱のこもった眼で一目見て微笑むと、僕の方に体ごと向きを変えて一呼吸置いた。これはまずい、僕は即座に察した。
赤司くんが語る体勢に入ってしまった、と。こうなってしまったが最後、赤司くんは気が済むまでしゃべるのをやめない、大抵この被害被る役目は緑間くんなのですが、今日の僕は運が悪かったようです。


「いや、彼女を連れていくと言った方が正しいかなもちろん無理強いはしないつもりでいるけれどそれとなく同じ高校へと進むように仕向けるわけだから結果的に同じようなものかもしれない赤司の力をフル活用し甲斐があるね……っと、今のは聞かなかったことにしておいてくれもちろん大学もそういう方向性で行く行くは同棲する気だよプロポーズのタイミングは……そうだな卒業と同時では遅いような気がするのだけどやはり雰囲気作りからが大事だろう……どう思う?テツヤ」
「いや……あの、僕はもうお腹いっぱいです」


ノンブレス、真面目な顔をしてしゃべりだした赤司くんに気圧され、返された内容が一個も頭に入ってきませんでした。失礼承知で言いますが本当にどうでもいいことを聞かされた気がします。辛うじて返した返事に赤司くんは不服だったようで、眉根を寄せて聞いていたのかい?とまた口を開こうとする。

勘弁してください。


「赤司くん、人生設計ならなまえさん本人と相談した方がいいと思います」
「これはなまえにはまだ内緒だ、特に進学の話は」
「なまえさーん赤司くんがお話があるそうです」
「テツヤァアア!」


貴重な休憩を赤司くんの人生設計及び惚気で潰されるのは御免被ります、ただでさえ疲れているのに精神的にも疲れるのはちょっと……。僕は即座に隙をついてなまえさんを呼びました。


「なあに?話ってなに赤司」
「……あ、その、何、今日一緒に帰ろうか、と思って」
「いつも一緒に帰ってるじゃない」


珍しく赤司くんは焦っているようです。ざまあと思ってもバチは当たりませんよね。


「そう、だね、いやどうしても絶対に一緒に帰りたいと思ったんだ、急に」
「そう?わかった」
「じゃあ僕はそろそろ外周に」
「あ、黒子」
「なんでしょう」
「外周行くなら紫原も連れてって、筋トレ飽きてるっぽくて向こうでだれてるから気分転換ついでに」
「わかりました」


好機とばかりにベンチから立ち上がってそそくさと赤司くんから逃げる。去り際にちらりと赤司くんを見れば僕を睨んで「後で覚えておきなよ、テツヤ」とでも言いたげな視線を投げられてしまいました。すみませんがもう忘れます、今日は必要以上に赤司くんに近付かないようにしなくては。

やっとのことで逃げ果せた僕は言われた通り、体育館の床に大の字で寝そべり、だれている紫原くんに声を掛ける。


「紫原くん、外周行きましょう」
「あー黒ちーん、丁度よかったあ、筋トレ飽きてたんだよねえ」
「なまえさんが君の様子を見て指示をくれました」
「そーなの?なんか赤ちんが熱心になんかしゃべってたっぽいけどーなに?なんかあったの?」
「……いえ、今日は僕司くんが」
「あーはいはいわかったーいつものビョーキねー黒ちん災難ー」
「いつかなまえさんを手篭めに、なんて僕は考えすぎでしょうか」
「手篭めー?監禁の間違いでしょー俺は時間の問題だと思うけど」
「……洒落になりませんね」
「ほんとほんとー赤ちんならやりかねないでしょー」


ふわあ、と気怠げに欠伸を一つ零して紫原くんが立ち上がる。"どっちの"赤ちんにも言えることだけど、変なところで奥手だよねー。紫原くんが何気なく零した一言に頷いて、体育館を出る際にそっと赤司くんとなまえさんを見た。
穏やかに笑い合う二人は仲睦まじい恋人同士そのもの、しかし実際のところ付き合ってはいないようで。


「赤司くんのアプローチは時々目を見張るものがありますよね、悪い意味で」
「そだねーただなまえちんがそれに気付いてんのか、はぐらかしてんのか、そこんとこどうなんだろー俺は別にどうでもいいけどさあ」


この時、僕らはまだ知らなかった。
赤司くんがどれだけなまえさんに依存して執着していたのか。言ってしまえば、知りたくもなかったのですが。

20150622
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