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ちゅっちゅ、ちゅう、むちゅ。

一見、いや、一聞してちょっぴり気持ち悪いとも聞こえてしまうようなその効果音、それが延々と聞こえてみろ、さすがにうんざりしてくること請け合いである。ついでに言っておくと、イン耳元だ。

「……馬岱?」
「んむ、なあに?」
「いい加減にしない?」
「え!いい加減にシよう?もっちろんいいよウェルカムだよお!ウェルカム!」
「うん、違う」

馬鹿なのなんなのアホなのしぬの?いい加減やめろという意味で言ったのに、この馬耳念仏野郎。

この馬岱という男は私を自分の足の間に置いて、寸分の隙間なく距離をゼロにするように抱き込み、至るところに唇を落とし押し付け、一人で愉悦に浸っている。彼はいわゆるキス魔、とにかく唇で触れてくるのが大好きで、暇さえあればところ構わず、と非常に傍迷惑な性癖(と言えるのだろうか……)の持ち主である。

「えええ、ダメなの?」
「ダメ、イヤ」
「ちょ、イヤって言ったよこの子!イヤって!」

さすがの俺も傷ついちゃう!そうあからさまに落胆したような声色で言うものの、彼の唇は依然として忙しなく至るところに落ちてくる。こめかみ、耳の裏、うなじ、そして時折むふむふと耳たぶを食む。

「俺ね、耳たぶお気に入りなのよ」
「あっそう」
「ううわ、反応うっすい!」

この馬岱のキス魔たる所以は、ただ単に様々な場所に唇を落としたいだけではないのである、とにかく唇で触れたい、だからあまり手指で触れてこようとはしないのだ、今もそう、馬岱の腕は私を離すまいと巻かれているだけで、身体をまさぐる気配は全くない。

一度だけ、何故そんなに唇で触れたがるのか聞いてみたことがある、すると馬岱はいつになく真面目くさった真剣そのもの、そんな表情でこう言った。

多分だけど俺の唇、他の人よりも敏感らしいのよ、まあそれで何か得したことがあるかっていうと、なんにもないんだけど、でも唇に何かが触れてるとものすごーく安心するんだよねえ!

私は非常にどうでもいいと思ったが、ひとつだけ解決した疑問がある。一緒に就寝した時に、暑かろうが何だろうが必ずぴったりくっついて、身体の一部に(背中や肩、首筋など)顔を押し付けて眠る馬岱を常々邪険に……いや、不思議に思っていたわけなのだが、唇で触れていることによって安心感を得ていた点である。

「ねえ聞きたい?俺の三大お気に入り!」
「別に聞きたいと思わない」
「そーんな冷たいこと言わないでさあ、教えてって言おうよお」
「ほんと聞きたくない、ね?もう黙ろう?」
「デデン!第三位!」

え、なんなの無視?強行突破?強制的に聞かせるつもりなのこいつ、このにやけてふやけきった表情がまた腹立つんだけど、仕方ない。私が折れて渋々黙って聞いていると、口でドラムロールを真似て(ムダにうまい)馬岱はランク付けを始めた。

「三位は耳たぶ、こうしてぎゅーっとした時に触れやすいから大好きなのよ」
「へえ」
「第二位は下乳!」
「ばっ!?はあああ?」

とんでもない部位に思わず素っ頓狂な声が出た、ここね、ここ!なんてわざわざ指ささなくていいからわかるから!

「乳首も好きだけど、胸の下の部分の柔らかさがたまんないっていうかシてる時に下からこう、なんて言えばいいかなあ?」
「わかったもういい!乳の話はいいから第一位!一位は何!?」

恥ずかしい、キスマークを見えない位置に付けるのは馬岱なりの配慮かと思ったらそうじゃなかった、単に胸の下が好きだからだった、知りたくなかった新事実にやるせない気持ちが次から次へと溢れ出す、この調子だと一位を聞くのが怖い、でもいい加減に乳の話題から離れたいから仕方あるまい。

「一位はもちろん、ここだよお!」

言いきるのが早いか、馬岱の唇が私の唇に重なるのが早いか、不平不満も抗議も堰き止められて、全部飲み込まれてしまいました。

And let me kiss you

20140207
20200422修正
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