short | ナノ
ここ最近業績が目に見えて落ち込んでいる、部長から物凄い怖い顔で睨まれて、これ以上落としたら次のボーナスはないものと思えって脅されたし、商談も成立はするものの、手応えが全くなくて、先輩や同僚のフォローなくしては……な状態。

集中力も注意力も散漫になってるみたいでいいアイディアも全く浮かんでこない、仕事は好きだし大変と言えば大変だけど辛いわけじゃないし。

別に仕事に支障をきたすような悩みがあるわけでもない、そもそも失恋したとかそういう類いで仕事が出来なくなるほどヤワな神経持ってないもの。

「今の私に足りない物って、何……」

なんかやる気なくしちゃうなあ、ため息と一緒にデスクへ突っ伏した、ごちゃごちゃしたデスクの上で指先に何かが当たる感触、ゴトンと音がした後にすぐ顔を上げて先を見る。

やばい。

ぶわりと広がる紅茶、何時間も前に淹れて結局一口も飲まなかったやつだ、書類や資料を浸食する液体、被害は私の前のデスクにまで及んでいる。

「ごっ、ごめん!うわーどうしよう!ほんとにごめん!」
「……いや」
「あーもー自分のミスで他人にまで迷惑掛けるなんて、周泰くんそっちの資料ダメになってるよね」
「……読めればいい、大丈夫だ」
「ほんっとにごめん!私それ作り直すから」

茶色くよれた紙の束、情けない、こんな自分に腹が立つ、前のデスクに居る周泰くんは気にするなと言ってくれるけれど私の気が収まらないので資料はきちんと作り直させてもらうことにした。

前のデスクとは言え、やってる仕事内容は全然違うのであまり話したことがない、そもそも周泰くん自身それほど口数が多いわけではないみたいだし。かなりの長身で存在感はすごいんだけどね。

やらかした粗相を即行で片付け、シミだらけになった資料を借りてパソコンを立ち上げる、管轄外の資料だけど同じものを作り直すだけなら何とかなりそうだ。

作業に取り掛かりながら、チラリと周泰くんに視線をやってみると、ばっちり目が合った。

なにこれ気まずい。

「すぐ終わらせるから、ほんとごめんねー」
「……すまないな」
「いーのいーの悪いのは私だし!」

とりあえず笑って誤魔化した。

周泰くんってめちゃくちゃ背が高いんだよね、座ってても他の男性陣より頭一つ分以上飛び抜けてるし、喋んない分ミステリアス。(だと私は思ってる)

親しい友人は他の階の部署にいるらしいのを聞いたことがある、周泰くんって普段どんな話題で盛り上がったりするんだろうか。

しばらくディスプレイと睨めっこをしてキーボードを叩き続ける、大した量じゃなかったのが幸いして15分もかからず作業を終えられた、自分でもびっくりするほど真剣になっていたようだ。

資料を渡そうと思ったが、周泰くんはいつのまにか席を外していたらしい、室内には居ないようだ。デスクに置いておくだけというのも気が引ける、探しに行こうかとしたところでディスプレイの角に付箋がくっ付いているのが目に留まる。

どうやら周泰くんが貼ったらしい。

『休憩室にいる、すまん、持ってきてほしい 周泰』

しかも名前の後に歪な形のウサギが描かれていてつい噴き出してしまった、なにこれ可愛い、意外な一面に和む。急ぎ足で休憩室に向かうと、透きガラスで区画されたスペースに長身のシルエットが見えた。

「周泰くん?」
「……ああ」
「ごめんね、はい」
「……すまん」

渡した資料を受け取る時にほんの少し笑った周泰くん、改めて見るとやっぱり大きい、それになかなか端正な顔付きだと思われる。見上げて食い入るように見つめ過ぎたようで、周泰くんは何を思ったのか私の頭を2、3度ぽんぽん、と軽く叩いた。

いい子いい子の仕草に近いそれ、最後に頭を撫でられたのはいつだっただろうかなんて思い出し掛ける、ちょっと待って、これ端から見るとすっごい恥ずかしくない?

「しゅ、周た……」
「息抜き」
「え」

ん、と資料と入れ替わりに渡されたのは私がよく買うお気に入りのミルクティ。

「先の方を見つめ過ぎだ、目先を確実に固めるといい、そのためには抜き過ぎくらいの力加減が丁度いい」
「結果を、急ぎ過ぎてるってこと?」
「結果までのプロセスに重点を置いた方が相手も理解しやすく納得されやすい」

そっか、つまり段階の部分が説明不足、確かに考えてみれば端折った部分もある、むしろ説明しておいて損はないってことね!

でもどうして私が行き詰まってることを?

「……真ん前のデスクだから」
「ああ、そうだよねー」

目の前だし作業してて普通に見えるもんね、悪化の一途を辿る業績に居た堪れなくなった周泰くんの助け舟、何だか随分気が楽になったみたい。

「……次は大丈夫だ」
「ありがとう周泰くん、やる気出てきた!」
「……応援する」
「うん!もう少し頑張ってみる!」

今ならいい企画とプレゼンが出来そうな気がする、よっしゃー!と意気込んでもらったミルクティを握りしめてデスクへ猛進した。


紅茶が零れてわざと資料を濡らしてたとか実は目が合うまでずっと見てたとかお気に入りの飲み物を知ってるとかいちいち資料を持ってこさせてさりげなくアドバイスをして接点を増やす口実を作っていたとか周泰くんが策士であると気付くまでに私は随分と時間が掛かるのである。

深ちゃんへ、お誕生日おめでとう!ナチュラルにストーカー周泰、押し付け御免!
flat out……全力で
20130919
20200422修正
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