ボディガードだとかSPだとか、そんな仰々しいもの付けなくても平気だって言ってるのに私のお父様はどうしようもないくらい心配性、ちょっとつまずいただけで「眩暈か、病気か、病院だ!」なんて騒ぎ立てる。
いい加減にしろ。
怪我や病気くらいして当たり前、しない方がおかしい、過保護でしかも何重もの箱に入れられた娘、マトリョーシカのようで滑稽にも程がある。
私は一人娘でお母様も私を産んですぐに亡くなったし、お父様も残る家族が私しかいなくて寂しい故に、ということもあるんだと思う。親子二人きり、きっと片親であることを私以上にお父様が気に掛けているんじゃないだろうか。
「心配してくれるのはありがたいと思うけれど、用心棒を、しかも普段はお父様を警護してる超腕利きを付けるだなんて」
「……何かあってからでは、遅いかと」
「そうなんですけど、私なんかよりもお父様のそばにいた方が」
「……旦那様はご自分より、あなたの身を優先しています」
「でも」
「……なまえ様、旦那様は」
「わかってます、お父様がよかれと思ってることは重々承知してるの」
巨神兵みたいにずば抜けて背の高い彼は周泰さん、普段は世界中を飛び回る学者であるお父様の護衛。その彼がお父様の命で私に付いた、お父様はまた出張、長期になるからと自宅から何人かの使用人を連れて行ったのだけれど、一番信頼している周泰さんは置いて行った。
身代金目当ての誘拐とかドラマや映画じゃあるまいし、とは思ったけれどお父様はそういったフィクションに影響されやすい人だ。ありえない最悪の状況を妄想して一人あたふたしたに違いない。
「……悪い虫が付かないように、とも」
「変な男に引っかかるほど飢えてもいませんての」
余計なお世話まで!
これで婚約者まで勝手に決め出したら家出してやるんだから!全くもう、と周泰さんに愚痴を零す、きっと周泰さん自身もこんな小娘相手に退屈だろうし、相手にするのも面倒だろうな。
当初予定していた買い物はやめにして部屋で読みかけの本でも読もうかな、そう思って周泰さんに、自分は部屋にいるから適当に寛いでいてくださいと伝えようと口を開きかけた。
「私……」
「……買い物は」
「え?」
「……買い物に行かれるのでは」
「ああ、今日は部屋で寛いでいようかなって」
そしたら周泰さんは首を傾げて何故かと尋ねてきた。
「何故って言われても」
「……遠慮は、いりません」
まるで騎士みたいに私の前に片膝を付いて周泰さんが言った、お父様の命令だからだとか、私に気を遣ってるわけではなくて周泰さん自身の意思だって。
いつもお父様のそばでぬりかべみたいに佇む周泰さんは近付き難くてとっても怖いイメージだった、でもちょっと違ってたみたい、寡黙なことに変わりはないけど話しかければちゃんと答えてくれる。
それに私が買い物に行きたいことを雰囲気から察知してくれて。
「……迷惑だなんて、思っていません、むしろ、楽しげにしているなまえ様を見ていたい」
真剣な表情で言われて、これが照れずにいられようか!
「え、っと、その、じゃあついて来てもらえます、か?」
「……喜んで」
従順エスコート(えっと、あの、ランジェリーショップに)
(……外でお待ちします)
(助かります)
(……ち)
(あれ、今舌打ちが聞こえたような)お嬢様と護衛って素敵。
20130625
20200422修正
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