short | ナノ
そんなつもりじゃなかった。

仕事で上京先から地元へ出張、帰りに小学生来の友人とばったり出くわした、昔からテンションの以上に高い人だったから、超久しぶり!元気?何仕事帰りなの?ちょっと一杯やってこーよ!

相変わらずのハイテンションを駆使して友人の腕は私の腕にしっかりと絡まって、半ば引きずられるように近くの居酒屋へとなだれ込む。店主に片手を上げて軽く挨拶、よく来てたのか慣れたようにカウンターへ着席して隣に着席させられる、用意されたビールを注がれながら友人の目はぎらぎらと輝き始めて単刀直入に尋ねられる。

「で、その後の進展は?」
「…は?」
「は、じゃないっつの、ばかたれ」
「酔ってる?もうビールはやめ…」
「うっさいわ!今までアタシがどれだけあんたの恋路を心配してたかわかってんの?うぶで奥手なんてもんじゃないネガティブマスターなあんたを!」

すでにどこかで一杯引っ掛けていたらしい彼女の勢いは止まらない、長い付き合いだ、大学まで彼女とはルームシェアもして双子の姉妹のような仲だった。

まるで正反対な気質の私らだからこそわかりあえて今も昔も気兼ねなく付き合えるのかもしれない。

「こんのネガティブランナーが!この様子じゃああんたの中であの時の青春はよき思い出ってか?お蔵入りなわけ?ありえなっ!超ありえなっ!」
「相変わらず容赦ない切り込み」
「はぐらかすなばか」
「だってほら、大学卒業して私すぐに上京したし」
「はああ?連絡先とか交換してなかったの?」
「ただ部屋が隣なだけだったし」
「それでも何度かお邪魔したでしょあの寡黙男の部屋に、せっかくアタシがチャンスをあげたのに二人して無駄にしやがって」
「え、ちょっとチャンスってなに」
「あの時なまえは単に部屋の鍵を無くしたとか思ってたかもしんないけど、実はアタシが隠してたわけよ!部屋の前でいつか帰ってくるはずのアタシを待つ可哀相ななまえ、それを見た寡黙男が見かねて部屋に入れてやるであろうことを見越してね!」
「ひっど!何その裏話ひっど!しかも結局帰ってこないっていうね」
「当たり前じゃん、なまえが寡黙男の部屋に無事入れたことを陰から見届けてアタシは愛するダーリンのとこに行ったし」
「見てたの!?」
「うん、それよかひどいのはあんたの方でしょ、人がせっかく好きな人の部屋に入れてもらえるよう計らったのに結局何事もされないで帰ってきやがって」
「し、周泰さんはそんな人じゃないし!」
「あんたねえ」

深くため息をついた友人、今だから言えたようなカミングアウト、大学生だった当時私は友人とマンションの一室をルームシェア、同時にその隣の住人だった周泰さんに恋をしてた。

いつだったか鍵を無くして部屋の前で立ち往生、まさか友人がわざと隠していたなんて。管理人さんは常に不在(管理人の意味がない!)友人に電話してもなかなか繋がらないからメールを入れておけばいつか帰ってきてくれると信じていた私は些か純粋過ぎた、待てど待てども帰らぬ友人、風が冷たい日だった。

かじかむ指先、部屋の前で立ち尽くす私に帰宅した周泰さんが不思議そうにどうしたのか尋ねて、鍵を無くしたようで友人の帰りを待っているのだと伝えれば、友人が帰るまで上がらないかと誘ってくれたのだ。

結局友人が帰ってきたのは翌日の昼、周泰さんには晩と朝、昼までもご馳走になってしまい本当にご迷惑とお世話をお掛けした。

だから今度は逆にお礼をという名目でこっちの部屋に呼べば?と友人が提案したくせに呼んだ当日、友人はトンズラ。

私達の部屋に周泰さんとまたも二人きりで嬉しい半面どうしようもなくドギマギしたのをよく覚えている、ただのお隣りさんと言うには親し過ぎるし、友人と呼ぶにも些か互いを知らな過ぎた。

関係性を的確に表せられる適当な言葉はなく、やきもきしていたのは私よりも友人の方、告白するしないで幾度となく言い合いを繰り返してその話題は平行線を辿ったまま大学生活はあっという間に終わりを迎える。

友人はそのままその地で職場を見付け、私と言えばたまたま見付けた職場が都心だったから……いや、たまたまなんかじゃない。

私自身もぬるま湯に浸かったままの状態に嫌気がさしていたのは確か、いつまでも微妙な関係にあるのは耐え難いものがあったけれど告白する勇気を持ち合わせているはずもなく、かと言え綺麗さっぱり諦めきれるほど強くも潔くもない。

だから上京した、逃げるように。

就職先を友人にも周泰さんにも告げず部屋を出た。いい思い出、いつまでも美化したまま。弱虫の私には丁度いい、最後に無理をして辛い思いをしながら上京するよりも。

それこそ何も言わなかった私に友人は大激昂、電話からひどい勢いで怒鳴り散らされ、どうやって調べたのか上京先のマンションにまで殴り込んできて、実際に殴られた。

すごく痛い、痛かったけどそんな私よりも友人の方がずっと辛そうで痛々しかった、私は最低だ、突き放して裏切った、きっと疎遠になると覚悟していたのにあっさりといい方向に崩れた。

後悔してないの?未練は?

無いとは言えない後悔も未練もある、当たって砕けたら絶対に立ち直れない、私はわがままで弱くてずるい、全部綺麗な思い出として残す道を選んだ。その日ひと晩一緒に泣いた、それでも結局答えは出ないまま。

「昔からばかみたいにロマンチストだったし真っ向から現実と向き合うのが怖かった」
「うん、わかってる、なまえは今でも夢見がちなお姫様だってね」
「お姫様はいきすぎじゃない?」
「妥当よ妥当」

一口も付けずに温くなったビールのコップを両手で包み抜けかけた炭酸を見つめる、閉じ込めてひた隠し、目を逸らし続けた思い出から二年越しに向き合った。

「アタシらはもう子供じゃない」
「うん、だからこれを機に」

綺麗さっぱり忘れよう、もう思い出には浸らないし溺れない、振り回されないためにも。過去との訣別。しかし力強く頷きかけたところで友人の両手が私の肩をわし掴む。

「玉砕しなさい」
「は……はあああ?」
「アタシ相変わらずあのマンションに居るんだけど、あの寡黙男も相変わらず」
「い、居るの?いやでも今私すごいかっこよく潔さげに思い出を断ち切ろうと」
「あんたみたいなネガティブマスターネガティブランナー弱虫毛虫の夢見屋がそんな簡単に諦めつけられるわけないでしょ」
「うわ、マイナスイメージ総動員とかひどい」

そして玉砕しろとね、今更なんで。周泰さん引っ越しとかしないでまだあの部屋に居るんだーとか不覚にもちょっとキュンときちゃったけど程普今更はだめでしょ。

「仮に言って告って何?」
「丸く納まりゃ儲けもん、だめなら……何?」
「ほらあああ!もうそうやって中途半端に投げるのやめようよ」
「煩い煩ーい!とにかく行けっての、行って告ることに意義があんだよわかれよこのばかたれが!」
「痛ああ、本気で蹴るのやめ……いって!」
「さっさと懐かしきマンションに行け!」

尻を蹴っ飛ばされながらほとんど無理矢理、ついに私は帰ってきてしまったのだ、しまい込んでいた感情が頭を擡げ再び胸中を支配する、友人はまた肝心なところで私を放ってどこかへ消えてしまった。

どんな顔して会えばいいんだ、私の性格からして軽いノリで挨拶なんかできっこないし改めて行儀よくというのも白々しい、とりあえず部屋の前まで来てみてうろうろ、まるで不審者そのもの。

インターホンを押そうか押すまいか、拳を握って開いて。

「……なまえ?」
「っ!?」

背後から大好きな声、またこの声が聞けた嬉しさとまさかの背後からのご登場に驚きを隠せず盛大に肩を震わせる、振り返ればたった今帰宅の周泰さん、くそっまた友人に計られたらしい。

「……とりあえず、寄るか?」
「あ、あの、私」
「……話しなら、中で聞く」
「周泰、さ」

私は本当にばかたれだ、周泰さんは依然として優しかった、前とちっとも変わらない、友人はそれを知っていたし多分私がまた戻ってくるかもしれないことを言ってたと思う、きっと余計なことも。

涙腺が決壊、不可抗力でも今更のこのこやって来て泣くなんてどうかしてる。悪いのは自分、最低だ、本当にばか。

「しゅ、たいさん……っ」
「……中に」
「ごめ、んなさい」
「……」
「だ、いすきです」
「……ああ、知ってた」

枯れるほど、零した。

ノスルジア

20110522
20200422修正
 / 
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -