short | ナノ
いつもの馬岱はどこ?飄々として、おどけていて、みんなに笑顔を届けてくれる馬岱は、一体どこへ行っちゃったの?こんな馬岱わかんない、全然知らない馬岱が私の視界の全部を占領してる。

「意味、わかるよね」
「わ、わかんないよ、どうしちゃったの馬岱、なんか、怖いよ」
「ほんとにわかんない?それ、絶対嘘だよねえ」

馬岱の寝台に縫い付けられるようにして押し倒された、両腕もきつく捕まえられて少しだけ、痛い。そもそも、何故こんなことになってしまったのだろうかと考えてはみたけれど、皆目見当もつかない。

馬岱が、お茶でもどうよ?つもる話もいっぱいあるし、そう言って就寝前の雑談に誘ってくれたのがここにいる理由のひとつ。もちろん私達はただの茶飲み友達という軽い間柄ではなく、お互い好き合って……と、そんな仲。

実際は雑談なんて軽いものじゃなくて、つもるというより込み入ってる話。

「俺の言ってる意味、わかるでしょ」
「わかんない、馬岱以外の男の前で笑っちゃだめって……どうしてそんなこと言うの?私は馬岱が一番大好きだし、馬岱以外に色目なんか絶対使わない」
「これでも譲歩してるつもり、ほんとは俺以外の人としゃべって欲しくないのよ、なまえが色目を使ってないつもりでも、男って言うのはすーぐ勘違いする生き物だし、それになまえって俺がいても結構人気あるの、知ってた?」

普段ぱっちりしている瞳も今は据わってる、きらきら眩しい眼差しも鋭く尖って突き刺さるようだ、こんなふうになってしまった馬岱を私は初めて見た。いつもだったら「んもう!なまえってば若とばっかり鍛錬してないで俺ともしようよお!」とか「新兵達ばっか褒めそやしてずるい!俺も頑張ってるよお、褒めて褒めて!」そうやって、自分は嫉妬しているんだと口にも出すし、体現もする。

だから馬岱に心配かけないようにと思って、極力男の人と二人きりになってしまわないよう配慮してきたつもり。例えば月見酒でも、と誘われたとしよう。その相手が張飛殿であろうと関羽殿であろうと、お酒は馬岱と一緒の時にしか飲まないと決めている。(私はあまりお酒に強くないのだ)

そんなふうに、常に馬岱を一番に考えているのに、それでもまだ不満があるみたい、これ以上私にどうしろって言うの。

「……ねえなまえ」
「なに?」
「男の嫉妬ってほんと、醜いよねえ」
「急にどうしたの」
「だってさあ、なまえは俺のだよ?公言もしてるしみーんな知ってる、それなのに平気で、頭の中でなまえのことをめちゃくちゃに犯して自分を慰めてるお馬鹿さんがいるんだよ?俺もう頭にきちゃって」
「え……」

何それ初耳、いや知らなくて当然かもしれない。頭の中で誰が何を考えているのかなんて、普通はわからない。でもどうしてそれを馬岱が知ってるの?その答えはすぐにわかった、たまたま木の上でうたた寝していた馬岱、そこの彼がいるとは知る由も無い新兵二人、私を主体とした卑猥な雑談しながらその木の下を通り掛かったらしい。

話の内容を聞いてしまった馬岱は静かに激怒、その後の新兵らがどうなったかなんて聞くのは野暮というものだ。

「なまえが悪いってわけじゃないけど、俺だけのなまえでいて欲しいって考え出したらさあ、なまえの存在を知ってるのが俺だけになればいいんだって思っちゃうわけ、でもそうするにはなまえを知ってる人をみーんな殺していかなきゃダメでしょ?そんなのムリだし、どうしようもなくて、モヤモヤしちゃって……」

泣きそうな、苦しげに歪んだ馬岱の表情をじっと見つめる、どんな言葉を掛けるべきか私にはわからない、そういえば付き合い始めてまだ間もない頃、馬岱は自分のことを根暗で卑屈っぽいところがあると言っていたような気がする、あの時もおどけたふうに言っていたから冗談なんだと思ってた。

「こんなの八つ当たりでしかないってこともよーくわかってる、わかってるけど所詮は俺も男、なまえのこと思いっきりでたらめに愛したい、想像なんかじゃなくて、ほんとにほんとに愛してるから、だから……!」
「ばた……」

いつも飄々としてあっけらかんとしてる馬岱がこんな顔をするなんて、痛々しく歪んだ表情に胸が苦しくなる。

ほだされたわけじゃない、同情のつもりもない、私は馬岱を一番に愛してるから心配しなくていいよ、本当なら痛いのは嫌だけど馬岱にだったら何されてもいいと思ったんだ。

そっと腕を伸ばして引き寄せるようにして抱きしめる、首筋に当たる癖っ毛と荒い息遣いに静かに目を閉じた。



20140214
20200422修正
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