short | ナノ
卒業生、退場。
僅かに涙声になった司会の先生のアナウンスが講堂に響いた、それに合わせて卒業生が一斉に立ち上がると、皆微かに肩を震わせながら徐々に講堂から退場していく。
それぞれが思い思いの表情を隠すことなく曝け出し、場の雰囲気は誰もが感極まっている様子だった。
前の人に続いて歩き出し、講堂を二つに分けるように中心に設定された退場路、涙こそ出なかったものの寂しいことに変わりはない。ここには三年分の思い出がたくさん詰まっている。

歩きながら在校生の席へ視線を走らせれば、彼はすぐに見つかった。思い出の中で多くの割合を占めて、記憶の中でいつだってそばにいたのは関興だった。いつものぼーっとした表情ではなく、こちらを食い入るように見つめて今にも泣き出しそうな面持ちに、憂う。
あの子、私がついていなくても大丈夫かな、またおかしな突拍子もないことを言って誰かを激昂させたりしなきゃいいけど。ちゃんと三食忘れないで食べられるのかな。
それだけが心残りで、彼を残して卒業することに後ろ髪を引かれる思いだ。
講堂から退場し、教室で最後のホームルームを終えると、各々が思い入れの深い仲間とそれぞれ散り散りになる。
私は気が付くと中庭に足を運んでいた、関興と初めて会って、関興に想いを告げられた場所。よくここで膝を貸してあげたっけ。

「なまえ……!」
「あ、関こ……うわお!」

夏になると葉がわさわさ育って、いい木蔭ができるケヤキを見上げていると、後ろからタックルをかますように関興が飛び付いてきた。僅かに乱れた息遣いに走ってきたことが窺える。

「ここだと、思った」
「え?」
「なまえはこの場所にきてくれる、そう信じていた」
「うん、そりゃあ衝撃的な思い出がたくさんあるし」

告白されたこともそうだけど、ここでうっかり一緒に眠りこけて、お昼後の授業をサボっちゃったり、木に登って降りられなくなった子猫を助けたりいろいろあったもの。

「卒業、してほしくない」
「むちゃ言わないの、二度と会えなくなるわけじゃないんだし」
「……さみしい」
「私だって同じ気持ち、ほら、うじうじしてないで前向いて」

ぎゅう、と私を行かせまいとするその姿はまるで幼い子供、滑らかな明るい髪色の頭をいつもやっていたように緩く撫でる。

「ぼんやりしてばっかりかダメだからね」
「ああ」
「ご飯はしっかり食べて」
「うん」
「張苞くんに世話焼かれてばっかりにならないようにね」

微かにムッとした表情を見せた関興が、何か言い返してくるかと思ったけれど、想像していたものとはだいぶ違った。

「なまえ……」
「なあに?」
「寂しくてどうしようもなくなった時は、どうしたらいいだろうか」
「え?会う、とか?」
「どうしても会えない状態だったら、それでもなまえを感じたい時には、どうしたら」

なに今生の別みたいな雰囲気になってるの、何度も言うけど二度と会えなくなるわけじゃないんだから。

「電話があるじゃない」
「夜中、でも?」
「うーん、まあ時と場合にもよるし、毎日ってなるとさすがに怒るけど……いいよ」

これから通う大学は少し遠いから、実家を出てアパート住まいになる。極端な言い方をすれば、会いにくくなるとは思う。私だって寂しい、何よりも私の世話なくして関興がきちんとできるのかが心配で心配で。
後で張苞くんによくよく頼んでおこう、私がいない間、関興を頼みます。しゃきっとした男になるように!

「あと」
「うん?」
「休みの日、そっちに行ってもいいだろうか」
「もちろん!泊まりに……あっ!べ、別に変な意味はないからね!」
「嬉しい、楽しみだ」

はにかむように笑いながら擦り寄る関興の頭をくしゃくしゃにかき混ぜていると、小さく何か呟いた。聞き取れなくて、首を傾げてみる。

「……やっぱり、卒業してほしくない」
「まだ言うか」
「でも、一応、おめでとう」
「一応、は余計だね!」



20140304
20200422修正
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