short | ナノ
春、と呼ぶにはまだまだ寒過ぎる、桜が綻ぶのも当分先であろう3月某日、粛々淡々と執り行われた式を終え、講堂から生徒らが外へと繰り出していく。卒業式がこんなふうに物寂しくなるとは思いもしなかった、これからやってくる日々の何を糧に過ごせばいいものか、と少しばかり憂鬱になる。

「文鴦ぢゃんんん!」
「なまえさん!」
「卒業じだぐないよう私ももう一年文鴦ぢゃんと過ごじだいいい!」
「む、無茶を言わないでください、私も寂しい、これからの日々が憂鬱ではありますが……」

卒業証書と卒業の記念品を片手に、なまえさんが正面から飛び込んできた。ぼろぼろと惜しげもなく大盤振る舞いな涙、しゃくりあげては卒業したくないと繰り返している。
傍らにいたなまえさんのご友人らは苦笑しながらこちらを見て、あとはよろしく、そういった視線を投げかけてきた。
了承の意を込めて軽く会釈をし、なまえさんへと向き直る。

「なまえさん、一年の辛抱です」
「一年もだよ!文鴦ちゃんとスクールライフを送れないなんて耐えられない!」
「何もその一年全く会えないわけじゃないですし」
「でもでも、もし新入生に超可愛い子がいて文鴦ちゃんが一目惚れとかしちゃって私に飽きちゃって、なんてことになるかもわかんないよ!」
「それはあり得ません、私は毎日あなたに会うたびに一目惚れし直していたのですから、なまえさん以外に現を抜かす暇などありません」
「ぶ、文鴦ちゃんて時々豪速球投げてくるよね……」
「それよりも、他の誰かになまえさんを攫われてしまわないかが心配です」
「それこそ杞憂!文鴦ちゃんよりも可愛くて素敵にかっこいい人なんかいないから」
「っ、なまえさんこそストレートにきますよね」

お互いに照れ笑い、たかが一年されど一年、全く会えなくなるわけではない。休日には予定を合わせて出掛けよう、連絡もマメにする。
一年間耐えれば、また一緒に通学路を歩けるようになるのですから。

「私も同じ大学に進もうと考えているんです」
「えっ、本当!?」
「はい、学部は違いますが」

さっきまであんなにぐずっていたなまえさんはもういない、ころころくるくる変わる表情は見ていて飽きない、本当に嬉しそうに「文鴦ちゃんの私服姿が見放題!楽しみ!」言うものだから、一目も憚らずに強く抱きしめた。

「文鴦ちゃん?」
「私も早く卒業してしまいたいです」
「うん、私待ってるから!」

冷やかすような誰かの口笛が聞こえ、慌ててなまえさんを解放すると、彼女は少し残念そうにしていた。

「あ、そうだ、なまえさん」
「ん、なあに?」
「ご卒業おめでとうございます」




20140304
20200422修正
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