short | ナノ
艶めいて太陽の光に眩しく反射した銀が澄んだ空の刺し色と交互に煌めいて、兜の飾りが風に掬われ流れるように踊る。鈍色の擲槍を猛々しく振るうお姿は何度目にしても惚れ惚れするほどで、いっそその擲槍に貫かれてしまいたいとさえ思うほどに……。

「いつまでもそのご勇姿を見ていたいものでございま……」
「珍しいな、なまえが何かをしたためるなんて」
「ほぎゃああああ!」

す、と突然手元に影が差し、真横に現れた端正なお顔。思わず筆も竹簡も空いていた窓から放り投げてしまった、見事なまでに綺麗な弧を描いてよく飛んだ。
拙く決して達筆とは言えない文字の羅列、私は一介の兵卒に過ぎないのだけれど、文鴦様の護衛を任されている。それなりに読み書きも可能なために、文官や身の回りのお世話もさせてもらっていたりする。
地道にこつこつ努力をして絶対に出しゃばらない、褒められても謙遜して逆に相手を讃える、一見して地味ではあるけれど、人々の信用をすんなりと得られる気質が功を奏した。歴代の偉人達の功績から学んだことは大いに役に立っている。
そうして憧れていた文鴦様の率いる部隊に配属が決まって、更に地味に地道に地盤を固めてきた。
今や恐れ多くも武を語らわせて頂いたり、気軽に茶でもどうだろうかと誘って頂けるまでになり、戦場ではお強くて普段は柔和でお天道様のように温かく微笑んでくださる文鴦様をお慕いする以外にどうしろというのだ。惚れるしかないという話である。

日頃の感謝やらを伝えようと思い立ったのだが、面と向かって言うのは些か気恥ずかしい。だから文字にしてお伝えしようとしたら、どこで間違えたのだろう、ただの恋文のようなことになってしまったが、存外いい文章になったと調子に乗り出した結果がこれである。

「ぶ、ぶ、ぶ!」
「すまない、覗くつもりはなかったのだが……何度も呼んだのだがなまえがあまりに集中しているものだから、その、不躾な問いだとは思うが、それは誰に宛てた恋文……だろうか」

文鴦様が何度も呼んでいらっしゃったのに、気付かない私、無視したみたいなことになっているじゃないか私の阿呆、しかも読まれていたとか顔から火が出そうだ。
誰も何も文鴦様宛てですが。
でもそんなこと恐れ多すぎて言えない、言えるわけがない恥ずかしい。

「その、何と言うか……」

ほらもう文鴦様困ってらっしゃる、どうにもこうにもいたたまれなくなった私は羞恥に塗れ、文鴦様の言葉を遮るように駆け出した。

「自惚れだったらすまない、描写がどことなく私に近……あっ、なまえ!」

竹簡の後を追うように、形振り構わず窓から大空へと飛び立った。

20140311
20200422修正
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