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窓辺からぼんやり中庭を眺め、仲睦まじく飛び交う蝶々を一瞥し、すぐに視線を逸らした。(そのおかげで別の虫に蝶々の片方がとって食われた瞬間を見ずに済んだ)つい居眠りしたくなる麗らかな陽気ではあるけれど、生憎居眠りできるほどの眠気は微塵もない。目も頭も異常なほど冴え切っている、今すぐにでも全速力で駆け出したい気分だ。寝る、書物を読む、瞑想に耽る、その程度しかやることがない。

外界は危険だらけですから。

そう言ってこの邸の主は私に軟禁を強要した。陸遜という男は人一倍優しく、頭の切れるぶん想像力豊かな面が災いしてか、恐ろしいほどに嫉妬深い。そんな一面を知ったのは婚姻を前提に付き合いを始めて、随分と経ってから。

陸遜の私邸に招かれ、いずれは夫婦になるのだからと、いつしか住まうようになった、陸遜は私が気が付かない程度に、徐々に周囲を固め始め、自由を制限しだしたのだ。

この軟禁が決定的になったのは、ほんの僅かな違和感を覚えだしてからすぐの戦後だったと思う。そもそも私は陸遜に庇護されっきりになるほど弱くはない、それなりに戦場を駆け回る将だった、先発部隊を任されることも、奇襲部隊としても活躍できていた。

それが次第に後詰めや拠点防衛ばかりに回され(当時、それが陸遜の思惑だったとは全く知らなかった)しまいには本陣待機、あるいは援軍要請があるまで待機、そんな張り合いのない任ばかりにつかされ鬱屈とするのも無理はないと思う。

そんな時に事態が一変する、大した戦働をしていないおかげで、鍛錬は欠かさなくとも戦場での勘がいくらか鈍くなっていたらしい。たまたま形勢不利となった別動隊に援軍の要請が出され、私は意気揚々と出発した。

別動隊と合流して巻き返しはできたものの、私自身不注意で肩を大きく斬りつけられてしまったのだ、どくどくと溢れる生暖かい赤に意識はすぐにどこかへと旅立つ、気付けば何日も経っていて、起き出した横には少しやつれた表情の陸遜。(今思えばあれも演技だったのかもしれない)

全くあなたという人はどれだけ心配したと思っているのですか、はしゃぎ過ぎてはいつか痛い目をみますよと私は再三再四言い続けましたよね、平気平気大丈夫大丈夫と流されてばかりで私は夜も眠れない日が何日もあったんですからね、ああもう絶対に目を離すようなことはしません、それに幸か不幸かその怪我のせいで医者に戦場復帰は絶望的だと言われました、何にせよ私としても大切なあなたを戦わせるようなことは今後、させないつもりでしたので。

痛いほどに抱き締められ陸遜の言った意味を理解するのに、数秒ほど掛かった。身じろぎしたくとも、四肢が靄がかったように思い通りに動かせなかったのだ、斬られた場所がよくなかったらしい。

再び得物を握ることは叶わない、突きつけられた現実に、ただただ呆然とするばかりだ。

「これであなたを私だけのものにする理由ができました、愛しているから、危険な目に遭わせたくない……だから私はあなたをここから出さない、誰にも渡さない、絶対に」

何もかも最初から全て仕組まれていたのではないかと勘繰った。

強制的おやすみなさいのその前に
(愛し過ぎたその結末)

20140311
20200422修正
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