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いやはや困った困った、どうしようかこの状況、打破するには……ふむ、打開策が全く浮かんでこないとはどうしたもんか、軍師失格かねえ。

「もーう飲めませえん!」
「なまえ殿、言ってることとやってることがちぐはぐだが」
「ちぐはぐですう?」
「ああ、ちぐはぐだ、飲めないと言いつつ飲み続けてるじゃないか、もう止めた方がいいと思うがね」
「んーじゃあ代わりに賈ク殿が飲んでくらさーい」
「俺はもう十分に飲んだから結構」
「んーつれないですねえ」

始終ご機嫌、ぐでんぐでんのべろんべろんになったなまえ殿、一緒に月見酒などいかがでしょうかと誘われ遠慮なく共に杯を酌み交わしたらこれだ。思わず目を背けたくなるほど異常な早さで次から次へと酒の瓶を空け、月見など最初からそっちのけ。

こりゃ月見酒という名目のやけ酒かと疑いたくなる、いい月ですねえと口では言うが、俺の顔をガン見、おいおい何がいい月だって?あんたさっきから月なんざ一寸たりとも見ちゃいないだろ、酒はもう結構だ、その意思表示として傍らに杯を置く。

「余計なお世話ってやつかもしれないがなまえ殿」
「はいはーい?」

ちと面倒ではあるが、ちょいと探ってみましょうかね。

「やけ酒しなけりゃならないほどやってられないことでも?」
「……」

ふーむなるほど図星か、こんなことを思うのも、ましてや言うことさえも柄じゃないが、このまま放置してそそくさ帰るわけにもいかない。

何せ明日は大事な軍議がある、もちろんなまえ殿も出席する、このままだと二日酔いは免れない、それどころか軍議中にげろげろ(おっと失礼!)されでもしたら……付き合って飲んでいた俺にも責任という名の火の粉が降りかかるのは必至。

于禁殿に処罰されかねない、いやはやそれだけは避けたい。

「黙りを貫かれてもねえ、俺を誘ったからにはただのやけ酒って理由じゃあ済ませられないね」
「……」
「なまえ殿?」

俯き拗ねたような、それでいてバツの悪そうな表情、酔ってはいるがまだ意識は混濁していないらしい、ようやく杯を傾ける手を止め、もぐもぐと何やら言い淀んでいる。

「言いたいことがあるなら言ってくれ、誰かの愚痴だったとしても今夜は俺も酔っていた、明日には綺麗さっぱり忘れてる、それで済ませようじゃないか」
「いえ、愚痴というわけじゃ……」

酒によって朱に染った頬や首筋、女性特有の柔らかそうな肌の質に、一瞬男としての性が疼く、なまえ殿も武人と言えどどことなく香る甘ったるい雰囲気を醸し出している、んーきっと酒のせいだ、俺もいささか飲み過ぎていたのかもしれない。

うっかり間違いを起こしてしまう前になまえ殿を部屋へ帰し、俺もさっさと床に就くとしなくては。

「賈ク、殿!」
「ん?」
「あの、私は、その……愚痴だとか不平不満からやけ酒をしにきたわけではなくて、本当に、えっと、賈ク殿とゆっくり話ができたらと思っていて、私は普段からあまり口数が多いわけではないので、ええと、酒の力を借りれば、舌が勝手に動いてくれると、思って……他意はなくて、め、迷惑でしたら、申し訳ない、です……」
「……」

呆気にとられた、始終よくしゃべるお方だとは思ったが、月見酒に誘われた時から既に酔った勢いでしゃべっていたのか、素面は口数が多いわけではないらしい。

それにしても大して仲がいいわけでもない俺と話しがしたいとは随分物好きな……たどたどしく最後はしりすぼみになったなまえ殿の言葉、ひとつずつ辿るように解釈を進めていけば行き着く先は非常に厄介でこれまた難解な。

口下手であるから酒の力を借りてまでも俺と話しがしたい、つまり友好的に接したいと同意議。

「遅くまですみません、明日は軍議でしたよね、遅れず参りますし粗相も気を付けますので、長々お付き合いくださってありがとうございました、おやすみなさいませ」
「え、あ、ああ、部屋まで送ろうか?」
「いえ、大丈夫です」

多少のもたつきはあったが、なまえ殿はまっすぐ立ち上がると自らが空けた酒瓶を抱えて闇に溶け込んだ。俺は俺でしばらくその場に居座りさっきの言葉の数々を思い返す。

こりゃあ参った、思い出せば思い出すほどのぼせ上がらざるを得ないじゃないか、思いがけない好意的な態度にこっちがたじろいだ、悪い気はしない。

「……あっはっはぁ、何だか面白いことになってきた」


明日の軍議でなまえ殿にちょっかいでもかけてみようか、どんな顔をするのか実に楽しみだ。

20140108
20200421修正
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