「え、あ、周泰さん?」
「ん」
「あ、ああ、ありがとう、ございます?」
艶っぽい深紅の包み、綺麗にラッピングされた10センチ四方の箱を頂きました、少し年の離れた年上の彼、周泰さんが無言で差し出してきた突然の贈り物に、何事かと思いながらも流れで受け取ってしまいました。
今日は何か行事でもあったかな、と日付けを確認すれば2月14日ではないか!そうだヴァレンタインのことをすっかり忘れていた。どうしよう私何も用意してないよ。
「なまえ
「は、はい!」
「お前からは、ないのか」
あちゃ、嫌な予感と思った瞬間に周泰さんから痛恨の一言。
「な、え、あ、いやその」
「ないのか」
しゅん、と効果音がつきそうなほどがっかりしている周泰さん、わざとらしい!しかもあざとい!私が罪悪感感じてるのをしっかりわかっているようだ、そんなこと言われてもですね!ないもんはないんですよ、忘れてて悪うございましたとでも言えばいいんです!?
それにしても周泰さんがくれるなんて夢にも思わなかった、いわゆる逆チョコ。どこで買ってきたんだろう、包みからして高そうだし、周泰さんがこれ買うとこ想像出来ないなあ。
今から何か作ろうかどうしようか考えてたら、周泰さんが早く開けて食べてみろって。じゃあ、イタダキマス。
「わ、おしゃれ!」
「早く」
「あ、はい」
包みを開けてみれば中身はトリュフだったり、ほんのり洋酒の香りがするボンボン、魅入っていたら周泰さんは食え食え煩い、そんなに味が気になるのかな、とりあえず洋酒入りのやつを口にして数回咀嚼。
喉にじわっとくるアルコール、舌に広がるチョコレートの風味とよく合うなあ。
「周泰さん、これ美味し」
顔を上げて感想を伝えようとしたら両頬をしっかりと捕まえられて、本当に食べられてしまうような勢いで唇に噛みつかれた。
しゃべりかけていたから無防備に半開きだったせいで、周泰さんの舌が好機!とばかりに絡んでくる。なかなか離れてくれない周泰さんに身じろぎをしてみても効果なし、手元でチョコレートの入った箱がぐしゃりと歪んだのがわかる。
「っ、は」
ようやく離れてくれた、そう思ったらトドメだとばかりにべろり、唇を舐められて小さく微笑んだ周泰さん。
「今年は、これでいい」
「こ、こ、こ」
自分でも何を言っているのか、何が言いたいのか理解不能だった、今年はこれでいいってことは来年は……なんて考えたくない、心臓に悪過ぎる。
「なまえ」
「な、んですか」
「もうひとつ、どうだ」
「か、勘弁してください!」
濃くて甘くて痺れるような、大人の味がする中毒性の高いもの。
Shokoladenbraun kuss(チョコレート色のキス)周泰の策略。
20130214
20200421修正
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