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隣で声を掛けても起きなかった于禁さん、次の日が休みだからとちょっとくらい息抜きに羽目を外してみませんかということで、アルコールとおつまみを買い込みしこたま飲んだ。みんな大好き宅飲みだ。
外では付き合いの席でさえ一定量以上は絶対に飲まない。最初こそ渋ったものの、飲み始めればこっちのものだ。

酔いが回り少しずつへべれけになっていく于禁さんを見たことがあるのはきっと私しかいまい。ふふん優越感。

そのせいもあってかいつもなら目覚ましよりも早起きな于禁さんだが、今朝ばかりは声を掛けても揺すってもぴくりともしなかった。一瞬死んでないよね?と少し心配になってペタペタ触れてみれば温かいし、耳をそば立てれば心臓の音もしっかり聞こえている。

私のわがままに付き合ってもらったのだ、このままゆっくり眠っていてもらおう。そっと起き出しパジャマの上から薄手のセーターを羽織る。朝食は軽めにトーストと目玉焼き、すぐに作れる用意だけして于禁さんが起きたら焼こう。インスタントのコーンスープを棚から取り出してスープカップを二組一緒に置いた。

コーヒーメーカーに豆とミネラルウォーターを入れてスイッチを押せばがりがりと音を立ててコーヒーメーカーが仕事を開始する、しばらくすると香ばしい匂いが部屋いっぱいに漂う。

于禁さんはまだ起きてくる気配がないし熱いシャワーでも浴びようか、キッチンを出てお風呂へと向かう途中に姿見があるのだがふと横目に気になるものを見た。私はゆるゆるのTシャツとホットパンツという出で立ち、首元が大きく開いているそこから覗く赤い痕には覚えがあった。
キスマークだ、首筋と鎖骨周りにざっと4つほど。襟ぐりをぐっと引っ張って胸元にも3つか4つだろうか、付けられたこと自体は覚えているけれど数は数えていなかった。

そもそも酩酊状態で情事に及ぶのは私も于禁さんもあまり好きではない質なので昨晩は何もなかったのだが、素面の時よりも気持ちが多少なりとも浮ついていたのは確かだ。普段よりもスキンシップは多かった。
私は于禁さんの耳と鎖骨を甘噛みして、胸筋にぐりぐりとほっぺたを押し付けていたのと記憶が正しければ「于禁さんの胸筋をポッケに入れて持ち歩いていたい」とか言った気がする。これはちょっと恥ずかしいかな、于禁さん忘れてくれてるといいな。

于禁さんは私を膝の上に抱き上げて、ものすごく控え目に胸と太腿を撫でていたっけ。そういえば悩ましげなため息をついてたけどもしかして珍しく我慢してたのかな、それだったら抱いてくれてもよかったんだけどなあ、こんなこと言ったらふしだらだ!なんて怒られちゃうかも。
あ、内腿にもキスマークがある!こっちはいつ付けたんだろう、酔っ払ってる時じゃないと絶対にこんなところに付けないよね、そもそも于禁さんってこんなにキスマーク付けたりしないし。実は普段も付けたいけど自制してるのかな、あとで聞いてみよう。

姿見の前で他に自分の見えないようなところにキスマークがないかどうか、Tシャツを捲ってみるけれど首周りと内腿以外は残念ながら確認できなかった。全部脱げば見えるかもしれない、そう思ってお風呂場へと再び足を向けたところでドスンと何か重たいものが落ちたような音が寝室から聞こえてきた。

于禁さんが起きたのだろうか、それにしても何を暴れているのだろう。お風呂場に向けた足を戻して寝室をひょいと覗けばベッド脇で于禁さんが立ち上がったところだった。

「于禁さん?」
「……ああ」

掠れた声の返事がワンテンポ遅れて返ってくる。

「どしたの?落ちた?」
「私としたことが、横にお前がいなくて慌てて起きたのだが手をついたところに何もなかった」
「あらまあ」

いつもきっちり整えられている髪の毛は寝起きでくしゃくしゃ、そこが可愛くて艶っぽくて思わず于禁さんに駆け寄ってぎゅうと抱き着いた。

「于禁さん可愛い」
「男に向かって可愛いなどと戯言を」
「好き、おはよう」
「……全く敵わんな、おはよう」

ぐしゃぐしゃと頭を撫でられ苦笑が上から降ってくる。

「あ、そうそう于禁さん」
「なんだ」

こことここ以外であとどこにキスマーク付けたか覚えてる?そう聞きながらぐいと襟ぐりを引っ張り、内腿を見せるように片足を軽くあげてみせれば于禁さんは聞いたこともないような声を上げて切れ長の目を大きく剥いた。
忘れてたけど思い出したみたい、魚みたいに口を開閉して必死で二の句を探してる。慌てふためく于禁さんはやっぱり可愛いんだ。

たまにはこんな朝もいいよね。

20200315
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テーマ「人外ファンタジー」
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