short | ナノ
道路の凹凸が大きかったらしい、がたがたと大きく揺れたことで我に帰る。現実と夢の曖昧な場所から引き戻されて同じ景色が続いている窓の外を見たのち時間を確認した。
もうすぐ日付が変わる、バスに乗ったのが2時間ほど前だ。私に遠距離恋愛は向かないのかもしれない、住む場所が離れ、歳も少し離れた恋人のもとへ遊びに初めて高速バスを使ってみた。


年上の彼、周泰さんがデートのたびに車を飛ばしてきてくれるのだが毎回毎回ガソリン、高速代をかけてきてくれるのがありがたい上にふと申し訳なく思えて、俺は好きでこっちに来ている気を遣わなくていいと言う周泰さんを説き伏せて、土曜日の朝早く私から会いに行った。

知らない土地に降りた瞬間なんとも言いがたい不安がどっと押し寄せ足が竦む。迷子になるかもしれない、待ち合わせ場所に辿り着けなくて周泰さんに会えなかったらどうしよう。
バスを降りて閑散としたビル街、駅はどっちにあるんだろう、スマートフォンの地図を確認したものの見慣れないせいか、向かっている方角が間違っているんじゃないか何度も無意味に来た道を振り返る。
家を出る時は自信たっぷりに息巻いていた自分がいたのにこのザマだ、少し泣きそうになりながら歩いていると握りしめていたスマートフォンが着信を知らせてくれる。

周泰さんからだ!慌ててスマートフォンを持ち替え画面をタップ。

「着いたか」
「周泰さあん!」

聞きたかった声、心配してかけてくれたのだろう、その優しさに思わず縋るような声を上げてしまった。

「どこだ」

迷っていると察した周泰さんはなんでもいいから道路の案内標識があればそこに書いてあるものを教えろと言った、きょろきょろと見回して青い看板を見つけ、読み上げる。

「えっと、孫呉通りって書いてあります!」
「……わかった、そこから動くな」

それから数分も経たないうちに周泰さんが迎えに来てくれて私を拾い、いつもみたいにドライブデートが始まった。来てくれてありがとうって言ってくれて行きたいと伝えたところもいやな顔ひとつせず、景色が綺麗だと聞いたからってところにも連れて行ってくれて、楽しい時間はあっと言う間に過ぎていく。

「周泰さん帰りたくない」
「……バスの時間は」
「あと30分後」
「……」

困ったようにほんの少し眉を下げた周泰さん、こんなことを言うつもりじゃなかった。困らせたいわけではないのに。言ってすぐに後悔した、バス乗り場へと向かう車内の沈黙が痛い。

「……また週末」

ぼそりと呟いてまるであやすように周泰さんは空いている左手で私の頭をくしゃくしゃ撫でた。やっぱり大人なんだなあ、私のわがままを否定することなく宥めていなす。
バス乗り場があるロータリーの端に車を止め、また週末だと約束をする。動こうとしない私の頭をまたくしゃくしゃと撫でて何も言わずに見つめている。

来週なんてすぐだよね、寝て起きてを数回繰り返せばあっと言う間だ。

「……すぐだ」
「ごめんね周泰さんわがまま言っちゃって」
「……別れが辛いのは同じだ」

そうだ、そうだよね。周泰さんだって同じ気持ちなんだ、私だってもっと大人になって分別のつけられるいい女にならなくちゃ。今度は俺が行くから待っていろと念を押されて素直に頷いた、名残惜しいなあ、周泰さんの大きな手をぎゅっと握ってお別れを言う。今生の別れでもないのに今日はなんだかとても寂しかった。

バスに乗り込んで動き出したバスから周泰さんに手を振った、見えなくなるまで周泰さんはずっと動かずに見送ってくれて交差点を曲がると周泰さんは完全に見えなくなった。


日付が変わってもう日曜日だ、地元の最寄り駅で降りた。
歩いて数十分の距離を家に向かってとぼとぼ歩き始めたところ、すぐ脇の駐車場から車が一台出てきたと思ったら突っ立っている私の真横で停車した。

「……まだ週末だ」

車から降りて私の手荷物を攫うと周泰さんは助手席のドアを開けて待っている。夢でも見ているのかな、どうやら周泰さんは私をバスに乗せたあと追いかけるようにして高速に乗ったらしい。バスは途中で止まるのだが周泰さんは自分の車だ、どこかで追い抜いたのだろう。

「周泰さんどうして……」
「……なまえに感化されたようだ、俺がまだ共に居足りなかった」

嬉しくて思わず飛びついてしまっても周泰さんはしっかりと抱きとめてくれる、日曜日はまだまだ始まったばかり。私たちの週末はこれからなのだ。

20200314
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