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居心地の悪そうな張遼さんに内心ほくそ笑みながら私はこっちこっちと彼の腕を引いた。声が届いたかどうかはわからないけれど、大体はニュアンスでわかったはずだ。

何しろ場所が場所、耳が痛くなるほどの爆音がひしめき合うここはゲームセンター。
いろいろなアーケードゲームのBGM、負けじとがなる店舗自体のスピーカーから溢れる安っぽいBGM。いろんな音のせいでシンセのベースしか聞こえていないけど。

奥にあるスロット系のコインが落ちる音も随分響いてる。「……!」張り上げた声は虚しくも喧騒に掻き消された模様。
張遼さんの唇が動いたけれど、何ひとつ拾えない。「え?なんですか?」張遼さんはどうやら帰りたいというようなことを言ったらしいが、早々に諦めたらしい。

これは私の悪戯だ、律儀にも付き合ってくれている張遼さんには感謝している。彼はハロウィンをすっかり忘れていて、私のトリックオアトリートの言葉に「仕方ない」と苦笑いで悪戯されてやろうと言ったが運の尽き。
嫌がらせ半分、張遼さんの困り顔見たさ半分、目的は果たせた。存分に張遼さんの困った様子を堪能したことだし、私自身もあまりやかましいのは得意じゃない。元よりゲームセンターにくる頻度も少ない。

帰りましょうというという意味を込めて出入り口を指差せば、張遼さんはあからさまにホッとしていた。

そんな折にふと電飾の配色がうるさいクレーンゲームが目に留まり、中にはなんのキャラクターかはわからないが、コバルトブルーの猫のパペットがちょこんと鎮座している。
きりりとした切れ長のつり目、くるりとしたカイゼル髭を蓄えていて、どことなく張遼さんに似ていた。
じっと見つめていたのが数秒か数分かはわからない。おもむろに肩をつつかれ「……欲しいのか」張遼さんの口は確かにそう動いた。
ひとつこくんと頷けば、彼は硬貨をポケットから取り出してクレーンゲームに落とす。

1回目で位置をずらし、2回目で取ることができた。(すごい!)取り出し口にはコバルトブルーの猫のパペットが顔を覗かせている。
張遼さんに差し出されたそれを受け取って、手にはめてみた。はくはく口を開けたり閉じたり、きりりとした顔立ちなのに、どことなくシュール。

咄嗟に私はそれを張遼さんの口元に押し付けて、パペットをはくり。「奪っちゃった」昔どこかで見たことのあるセリフを口にした。

7thハロウィンフリリクのサルベージ
20150129
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