short | ナノ
白雪がちらちらと舞い踊りながら降り積もり、やわらかなそれは触れればゆるりととけていなくなる。掴んでも掴んでも、ゆるりゆるりと逃げるようにいなくなる様はまるであいつだ、白雪によく似た肌を思い出す。

自由気ままな性格は猫だと言えなくもないが、人懐っこさは犬並。情の厚さは人一倍強く負けん気に至っては致命的、強すぎる。

誰か仲間内で悲しいことがあれば、自分のことのように一緒になって泣きじゃくり、逆に嬉しいことがあれば、馬鹿みたいにはしゃぎだす。

全く振り回される身にもなれ。

そう、なんだかんだ言いながらも甲斐甲斐しく世話をしてやる俺も俺だがな。

「夏侯将軍!」

一面真っ白に染め上げられた城外で寒空を見上げていると、積もった雪をさくさくと踏み締める音と共に当の本人のお出ましだ。

これでもかというほどの防寒対策、まるで達磨じゃないか。さっき白雪のようだと例えたばかりだからまさに雪だるま。あんなに着込んでいるのにも関わらず、がたがたと震えてる。

「うう、夏侯将軍って馬鹿ですか?この寒い中そんな薄着で見てる方が寒いですよ」

どうぞと外套を差し出された、わざわざ持ってきてくれたらしい。たまに見せる何気ない気遣いに、俺は不本意にも惚れてしまったのだ。

確かに少し寒いかもしれん、春の陽気はまだ訪れていない。時期的にはもう暖かくなっていいはずだが。

「夏侯将軍〜、寒いですから中に入りましょうよ〜」

さっきから寒いとしか言わないなまえに痺れを切らし、ぐいと引き寄せる。

いい加減黙れ、腕の中にすっぽりと埋まったなまえは最初こそ驚いたような表情を見せるも、すぐに照れて気恥ずかしそうな笑顔を見せた。

「夏侯将……」
「おい」
「はい?」
「いつまでそれで呼ぶつもりだ、乱世は終わった、もう俺は将軍じゃないぞ」
「えぇと……?」

困った時、頬へと手をやるのは生来の癖。口ごもるなまえを抱く腕に少しだけ力を篭める、ごにょごにょ呟くのに対しはっきりしろと強めに言えば、なまえの背筋がしゃんと伸びる。

「げ、元譲、さま?」
「それでいい」

俺達はもう他人じゃない。

遠慮がちに名を呼ぶなまえが愛おしくて、自然と口元が緩む。つられるようにはにかんだなまえの笑顔、それが絶やされることがあってはならん。

口にこそしないが、全力で護ると誓おう。


白雪の春
(春の訪れはきっとすぐそこ)

20100309
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