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民の方々いわく"おっかねえ化け物"を退治にやって来た、街外れの方まで。恐らく、雷王虎などのことだろうとしばらく馬を走らせるが、巣窟らしき場所をいくつ当たってもそれらしき気配はなかった。

ならばまた別に化け物がいるのか。不思議に思いながら、一旦引き返そうとしたところで、声を掛けられた。

「もし、待たれよ」
「はい?」
「すまぬが、力添え願いたい」

双戟を携え、特徴的な髭をお持ちの御人が困ったような表情を浮かべ、馬の歩みを止め辺りを見渡せば、進行方向もすでに下賎な笑みを浮かべた奴らで塞がれている。

呼び止められずとも、これは強制的に武器を構えなくてはいけなかったようだ。何にせよ、困っている方を見過ごすほど情のない人間ではないから、馬から降りかの御人と背中を合わせ、双剣を構える。

「山賊……ですか」
「こう数が多くては埒があかぬゆえ」
「微力なれどお力添え致しましょう」
「おお、ありがたい」

しばらく山賊を討ち払っていると、総大将、山賊頭が現れわたし達の前に立ちはだかる。これが思いの外、結構強い。俺の通った後は草木も生えねえ、などごちゃごちゃ煩いものだからいい加減いらいらしてきたので、懐に入って斬ってやろうかと思ったが、それよりも早く助力を求めてきた御人が前に進み出た。

「邪魔だあああ!」

とんでもない気魄と威圧感に雑魚の山賊共は一瞬にして吹っ飛び、山賊頭も相当な痛手を負った様子で、そそくさと逃げていく。すごい人だな、と若干の畏怖を覚えた。もしかしたら民は、この人を化け物と勘違いしたんじゃなかろうか。

と、いうかわたしの助力の必要はなかったような。

「かたじけない、助かった」
「いえ、わたしは何も」
「これは私の気持ちだ」
「そんな、受け取れませんよ」
「受け取ってくれ、さあ」

がさごそ、と懐から何やら取り出された金銀水晶、こんな高価なものを受け取れるほどわたしは力添えしちゃいない。困ります、と謹んで遠慮申し上げたがこの御人、引く様子が全くない。さあ、さあ、と尚も詰め寄ってくる。失礼承知で言うが正直怖い。

いつの間にか少しずつ後退していたらしく、とん、と何かにぶつかった。ああ、背後は絶壁行き止まりか。

致し方ない。

どうにも引きそうもない、目の前で未だ金銀水晶を差し出してくる御人のご厚意に甘えよう。では、遠慮なく貰いうけまする。さすが武人と言えよう、大きくて無骨な掌に乗せられた貴重品、丁寧に扱おうと両手でそっと包むように受け取った。自分の両手に包まれているものを見て、とても上等なものだと再確認。

「きれい……」
「そのようなもの、そなたの美しさに比べたら石ころ同然に過ぎぬ」
「はい?」

わたしの手を更に上から包む大きな手、少々意味がわからないのですがご説明を所望致したい。美しい?わたしが?ぎゅう、と握られた手、お顔が近すぎると思うのはもはや気のせいではない。

「失礼、申し遅れたが私は張文遠、名を伺ってもよろしいか」
「はぁ……わたしはなまえと申します」
「なまえ殿なんと可憐な名、なまえ殿はどなたかに士官されておられるのか」
「ええ、まあ一応曹操さまに」
「そうか、この張文遠ぜひなまえ殿と行動を共にさせて頂きたい」

更に詰め寄られ退路は断たれた、これで断りを入れるなど到底むりな話しだ、流浪の将だったらしい張遼殿だが、このようにお強い方が仲間として居てくれるのは非常に頼もしい。

「なまえ殿、ぜひ私をお仲間に!」
「わ、わかりましたわかりました!こちらからもぜひ、ですから張遼殿、ち、近すぎます」
「おお、ありがたい」

では早速曹操殿にお目に掛からねばな、張遼殿はそう言うと満足そうに微笑んで私をひょい、と抱き上げ馬に乗せる。

そしてその背後に跨がった、つまりはわたしが抱き込まれている状態になり、相乗りというわけだ。いまいち状況が掴みきれない間にも、馬は歩みを始め風景が流れ出す。

「ちょ、張遼ど」
「口を閉じられよ、舌を噛まれるぞ」
「え……うわっ!」

片腕でわたしの腹部をしっかりと抱き込み、反対の腕は器用に手綱を操る。急に駆け出した馬に、思わずのけ反り張遼殿に自然と寄り掛かる形になった。ふふ、と耳元で怪しげに笑った彼に、わたしは絶対に張遼殿が"おっかねえ化け物"に間違いがないのだと確信しつつある。

「万が一にも舌を噛み、傷付いた舌を絡め取られるのは痛みを伴うであろう?」
「それは一体どのような状況ですか!?」
「状況を言葉にしろ、というのですな?」
「いえいえいえ!結構です!」

なんの話だ!内容が内容なだけに意味を容易に想像できる分、認めたくない。もはや後戻りは叶わぬ夢、とんでもない御人を仲間に迎え入れてしまったようだ。

曹操さまになんてご説明致そうか、と胸中渦巻く不安に駆られながら、腹部で怪しげにうごめく腕をおもいきり抓って差し上げた。


で返上
(城に帰還し、張遼殿を曹操さまに紹介すると大変気に入ったご様子で張遼殿の一切を任されわたしは泣きそうに、張遼殿がほくそ笑んだのはもちろん言うまでもない)


5エンパで張遼がお礼をくれる台詞「これを受け取ってくれ、さあ」と、言うのがとても押し付けがましいというかねちっこい言い方だなと。

20100223
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