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私は今、回廊の柱に身を潜めて瞬きをも忘れるほど庭のとある一点を凝視し続けている、そこは芝生が青々といい感じに生い茂り大きな木の枝にこんもりとついた葉っぱが木陰を作っている場所。

お昼寝には最高にもってこいの場所でまさに今ちょうどそこで周泰様がごろんと無防備にもお休みになられている。私としては放っておけないというか、むしろ一緒にごろんとしたいというか。

片腕を枕にして仰向けにお休みになられているお姿さえも素敵で凛々しく見える、ああ私もご一緒したいその御腕になりたい、もうこの際だから下敷きの芝生でも。

……いやしかしでも待てよ?

普段ならばこんな無防備な周泰様は滅多に拝見できない、つまりそれは毎日お忙しくしていてお休みになる暇があまりないからだと推測できる。それなら今、この瞬間誰が周泰様の安眠をお守りできようか、この場所には私とお休み中の周泰様以外はいない。この任務が遂行できるは私だけ、今この場にいる私だけだ。

いつも素敵に無敵に頑張って下さっている周泰様に恩返しのつもりでこのなまえ、何人たりとも例え相手が孫権様であろうと誰であろうと邪魔はさせない命に代えても周泰様の安らかなお休みをお守り致します。

「ようなまえなーにしてん」
「黙らっしゃあああ!」

そして冒頭の如く周泰様の寝姿を目に焼き付けつつ安眠警護の任務を遂行しているとやはり甘寧様が現れた、尽く空気を読まないお方だから絶対にいつか現れると予想はしていたが、こんなにも早く現れて下さるとは。

それこそ予想外、周泰様の安眠をお守りするため、現れて下さった甘寧様には早々にご退願いました。上段飛び蹴りが綺麗に決まったのは言うまでもない。

「だめだ、素敵すぎて眩暈がする……」
「へえ、この甘興覇様の魅力にようやく気付いたか!」
「このなまえ、甘寧様に魅力はおろか好印象すら抱いておりませんのでご安心を……っていうか鬱陶しいのでさっさと消滅なさって下さいまし」
「お前何気ない顔してひでえな」
「本当に邪魔しないで下さいよ甘寧様」
「つーかマジで何してんだ?」

ご退場願ったにも関わらず甘寧様は気味の悪いほどお早い復活を果たして下さり何をしているのかと尋ねてこられたので、仕方なく周泰様の方に視線を向ける。くれぐれもお静かに願いますよ?という意味を込めて人差し指を自分の唇の前に持っていく。

「珍しいな、こんな場所で」
「でしょう?だから私、周泰様の安眠を妨害しようとする不届き者を抹消しようと警戒中なんです」
「抹消ってお前……」

甘寧様はまるで可哀相な子でも見るかのような反応を返して下さいますが、あえて私は気にしません。まあ要は好きなんだな?とはっきりおっしゃるのでそこは素直に頷きます。そういうわけで私はとても忙しいのです、だから邪魔しないで下さいよともう一度釘を刺しかけ異変に気付く。

「え、ちょ何を!」
「俺が手伝ってやる、感謝しろよな!」

ぎゃああ!体が宙に浮いたかと思えば甘寧様が私を持ち上げて周泰様のお休みになっている場所にぶん投げて下さった。誰も頼んでないのに邪魔しないで下さいよって言ったのに!この空気の読まなさすぎ加減、だから甘寧様は嫌なんだ!どすんと周泰様の脇に不時着して私は腰を強かに打ち付けた、痛みを堪えながら佇まいを慌てて直して自らが周泰様のお休みの邪魔にならないように努める。むしろ退散したい、私は遠くから見守るだけで十分だ!いざ周泰様を眼前にしたら恐れ多くてご一緒にごろんとしたいとか思っていた私、図々し過ぎる!

すぐさま立ち上がり、また元の柱の陰へと急いで戻ろうとしたが、足首に何かが絡まり転んだ。

「へぶ」

今度は顔面をしたたかに打ち付け変な声が出てしまった、恥ずかしい、何が起きたのかと足元を見遣れば足首に絡まっていたのは手。

周泰様の御手である。

いやむしろ絡まっていたというより、周泰様が私の足首をお掴みになっていらっしゃる、それこそ何が起きたのか全くもってよくわからない。

「し、しし周泰様!?」
「……」
「あ、あの」
「……あれは、新しい遊びか」

全力をもって身を潜めていたつもりがばればれだったようです、何をしてたんだと尋ねられた、遊びではないけれど周泰様の安眠妨害阻止とはいえ、私如きが護衛と申すには些かおこがましい。

言い淀んでいたが、周泰様は特に気にした様子はなく私の足首をお離し下さって起き上がるとここに座れとでも言うように、ご自身の隣を指差す。

「よろしいのですか?」
「……構わん」
「お、お言葉に甘えまして、失礼します」

恐る恐る隣にお邪魔すると周泰様は何を勘違いしたのか、そんなに警戒せずとも取って喰おうなどとは思ってないから安心しろと微かに笑みを浮かべながらおっしゃった。

「……いい日和だな」

周泰様のお言葉に耳を傾け首がちぎれんばかりに頷く、特に何を話すわけでもなくぼんやり辺りを眺めて、ただ一緒に居させて頂くだけ。それだけでも私は最高に幸せです、今回だけは甘寧様に感謝しようと思いました。

20110306
20210924サルベージ、修正
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